火蓋の上下 37~カザマンスの耳
夕闇は暗闇に変わった。
『まだ見えるか? あの鳥が。』
『微かにではありますが。』
キィ~!
パタパタパタ~!
『今、飛び立ちました。』
『ん?奴の塒ではなかったのか?』
『はて?』
『何か闇の空気が変わりはせぬか?』
ガぁ~!ギャ~ぁ!ギャ~‼グわ!グワ~!
パタパタパタ~‼
木々のそこかしこから、一斉に鳥が舞い上がり、星空の闇の空気に溶けていった。
『なにか、聞こえるか? そばだてて。』
『草の音?』
『掻き分けてる。』
『獣?』
ポキッ! パキン! ポキ!
『枝を、、折っている?』
『どこから? 高さは?』
『微かな、小さな、、』
『違う!音の大きさではない。高さだ。』
『と、言いますと?』
『地面を這う音か? 木の上か? わしらの目の辺りからか?だ。よ~く聞けばわかる。』
4人は呼吸を止めて音の方向に右耳を向けた。
『目の高さ、、』
『ならば、獣ではない。人だ。』
『なるほど。』
『来たな。フランス。間違いない。どこを下りているのかわからんが、少しずつ音が下っているのがわかるか?』
『、、、、、』
『わかります。』
『お前、先に行ってニジェ殿に報せ! 残りでもうしばらく様子を見よう。違っていたらそれはそれでまた一人報せに向かわせる。』
『わかりました!』
『ジョラも連れて来ているのか、確認もせねばならんからな。急げ!』
鳥のざわめく声も消えた麓は、薄い月明かりでほんのりと木の葉の影を山肌に映し出していた。
その代わりに、パキパキという音が下へ下へと下って来ているのが、乾いた空気に乗ってガーラの耳に鮮明に聞き取れた。
兵は走った。
『ニジェ殿~!ニジェ殿~!』
兵はニジェのいる民家の戸を開けた。
パタン!
『来たか?!フランス!?』
『たぶん、間違いないかと! ジョラも一緒かどうかは、ガーラ殿が追って。』
『わかった!』
ニジェは急いで、アゾのいるグリオの集会所に向かった。
『アゾ ‼ 』
ニジェがその扉を開けると、中からは外の空気まで温めるほどの熱風が漏れた。
パクッ!
『あっ、ひとつまみだけです。ちょっとだけ、、すみません。』
『はっ? そんなことはどうでもよい!』
『?』
『来るぞ!フランスが!!』
アゾは口にふくんだレンズ豆をプッと吐き出し、裸足の指でグイグイと押しつぶした。
『ガッテン!!まかしとき!』




