火蓋の上下 35~ニジェの策略
『フランス軍は、もうこの村には誰も住んではおらぬと思っているはず。もし宮殿まで行かれたら、補給兵の遺体を見て警戒し、殺気立つであろう。その前に。』
ニジェはファルとの誓いを思い出した。我々民が一人も血を流すことのない策略を立てようと。
それは我が部族マンディンカ、いやフラミンガも同じだ。
このまま立ち向かえば、いくら疲れ切ったフランス軍相手でも250と50、引鉄一つで壊滅だ。
勝ち目は無い。
やり過ごすか? マンディンカの仇を取るか? 二つに一つだ。
『奪った銃剣があるではないか!』
ガーラが壁を背中に座り込んだニジェに話しかけた。
『扱えるのはガーラ、お前だけだ。今から皆に教えても太刀打ちはできんよ。』
『そうだな、、』
ニジェは膝を抱えた。
『銃剣かぁ、、、待てよ!』
ニジェはスクと立ち上がった。
『アゾを呼んでくれ!』
『アゾ?』
『そうだ、いいから呼んでくれ!』
『は!』
アゾはガーラに呼ばれ向かいの民家からやって来た。
『よいか、アゾ。よく聞いてくれ。俺はお前に託す。』
『何をですか?』
『このすぐ先にグリオの集会所があったはずだ。そこの土間に竃がある。その竃を使ってレノー殿から頂いたレンズ豆を炒って欲しい。』
『そんなことをしたら、匂いでバレてしまうじゃないか!』
『おいおい、まだお前は慣れぬな。ニジェは王であらせられるぞ。口のきき方!』
ガーラが笑いながら言った。
『いいんだ。フランスもまだ来はせん。5人ほど手伝わせるから、頼む。』
『で、どうすんだい? あっどういたしますか?』
『レノー殿から頂いた物全てを他の者に持って行かせる。』
『その集会所とやらに?』
『そう。とりあえず、付いて来い。集会所まで行ったら説明する。』
『皆!一旦出て来てくれ!もう少し後方に下がる! この先の集会所付近まで移動するぞ!』
ニジェは兵に号令をかけた。
土壁の二階建ての集会所は、形だけだが綺麗に残っていた。
『薪で火を焚いてな。どこぞの民家から鉄鍋を持って来てくれ。で炒る。』
『は?で?』
ニジェはアゾに事細かに説明した。
横にいたガーラが「なるほどぅ」とうなづいた。
で、後は周りを俺達で。
『わかった!やってみる!』
アゾは2年もの間フランス軍の下、悔しい思いをしてきた。
親も兄弟も殺され一人で憎きフランス軍に使えて来た。それを思うと今ここで彼らに復讐をするという時間が恐怖を越え、楽しささえ感じているのであった。




