火蓋の上下 34~ヨレヨレディオマンシ
『ファルの思惑通りいけば、フランス軍はきっとこの東の山を降りて来るに違いない。』
『それはいかほどの人数で?』
ガーラはニジェに聞いた。
『たぶん、全員、、250』
『一人も?何事もなく? それでは勝って凱旋の帰路という事でありますか?』
『いや、勝ち負け無しの帰りだ。』
『それはまこと信じ難い。有り得ない。』
『まあ、見ておれ。』
フラミンガはジョラの捨てた民家におのおの分かれ、フランス軍を張った。
ニジェは土壁の小窓に張った蜘蛛の巣を払うとそこから肘まで腕を出し、それを下におろした。
『よいか!これが弓を放つ合図だ!』
それぞれの民家の小窓から顔を出していた兵はコクリとうなづいた。
その集落は宮殿へと続く道沿いにあった。
『食糧にありつけていないであろうから、一旦は補給兵の確認に宮殿に歩を進めるであろう。』
しかし、そのニジェには少し蟠りがあった。
レノーを射てしまった事だった。このままフランス兵達を皆殺しにしてしまっていいものなのか。
そして、もう一度小窓から手のひらを出すと、その手を右に振った。
『これは、、、射るな!静観の合図だ!』
ニジェは迷いながら、フランス軍の戻りを待った。
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『おい!早く歩け!後ろが詰まる! 早くしろ! 腰抜け!』
『もう、わしはこれ以上は、、』
足には露で湿ったシダが絡みつき、木々の細い枝の先がディオマンシの頬を突いた。
『お前、ここに逃げ延びて来る時にこの山を越えて来たんだろ?』
ワリがディオマンシに聞いた。
ディオマンシはこの小僧の物言いが気にくわなかったが、即と答えた。
『あの時は、3人の手下に代わる代わる担いでもらって来たんじゃ。』
『ハハッ、やはりお前が王ではないか。赤子でもないこの図体を誰が担ぐんじゃ!自分で名乗ったようなもんじゃないか!』
『うるさい!お前こそどこぞのもんじゃ!名乗れ!』
『おいらは、フランス軍のワリだ。』
ワリはニンマリとして答えた。
『先頭が草を刈って道を開いてくれているんだ! お前は歩けばいいだけだろ!』
後ろから一人のフランス兵が銃剣でディオマンシの尻をツンツンと突っついた。
『あっ!近寄るな!疫病が移るかもしれんぞ!』
『おっと、そうだった! あまりにイライラしたからな! 危ない、危ない。』
ディオマンシの身体は湿地のそれよりも水分を含み、大量の汗を足元まで流していた。
 




