火蓋の上下 33~戴冠
赤い太陽の光が真上からジョラの村を照らしていた。
軽やかな西風が湿った地面を少し乾かしているようだった。
やはり最初に見つけたのはディオマンシの隠れ家の外で遊んでいたギザだった。
『わー!ファルが戻って来た!』
ギザが部屋に飛び込んで来た。
『ファル!ファルが!』
隠れ家にいた民は沸き立った。
『バカだよ、この子は!ファル様!ファル様とお言い!』
皆は隠れ家の庭に飛び出し、ファルを出迎えた。
ファルの身体はまだ泥にまみれ、肩や背中は鶏の血で塗られたままであった。
『よくぞ、よくぞ無事であった。』
ムルが待ちきれず、真っ先にファルの元に向かった。
そこにはすでにドルンの姿もあった。
ファルはドルンを見つけると、民の誰より先に真っ先に近づいた。
『悪かったなぁ、ドルン。怖かったであろう。』
『大丈夫!なんともない!おいらにフランスなぞ敵じゃない!』
ドルンは鼻の下をこすってそう言った。
『ディオマンシもいなくなった。ここからは本当の王の鎮座じゃ。』
ムルはファルに手招きし、部屋に呼び入れた。
そこには新しい王の椅子、その座面にはトゥーカンの冠が置かれていた。
『即興だが、椅子を男衆が、冠は女衆がこしらえました。それを被って椅子にお座り下さい。』
『いつの間に!しかし、いや、こんな汚い格好のままでは、、』
『また、拭けばよいではありませんか。ジョラの王は代々民と共に生きて来られ、ディオマンシを除けば皆、身なりなぞ気にせぬお方ばかりでありました。』
コリが冠を手に取り座を開けると、ムルはファルをササと椅子に座らせた。
するとハラが奥からもう一つ椅子を持ち出し、ロダがトーカンの赤い羽根の部分だけでこしらえた冠を手に現れた。
『ほら、マンサ!いや、マンサ様もこれにお座り下さい。』
ハラがファルの椅子の横にそれを置くとマンサが恥ずかしそうにゆっくりと腰掛けた。
『では戴冠を。』
ファルにはムルが、マンサにはコリが、二人の頭に冠をガチと被せた。
民からは大歓声が沸き起こった。
『ディオマンシの宮殿より、この隠れ家の方が立派であります。当面はこちらを宮殿に。またいつぞや、フランスが攻めて来るとも限りませんゆえ。』
ムルがそう言った。
『では、向こうの宮殿もそのまま残しておこう。そうだなぁ、、皆の憩いの場にして。』
『それが良ろしいかと。』
『では、祝宴の御馳走をこれから!
』
ハラは男衆を引き連れ、昨晩絞めたばかりのヤギや鶏を取りに向かった。




