火蓋の上下 31~プラウマになったアクラとレノー
『撤退だ!!』
ディオマンシの宮殿の庭にはフランス兵が泰然と整列していた。
紫と橙の雲が入交り、早朝の空をゆっくりと流れていた。
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レノーがガーラの弓に倒れたその日、アクラの容態も急変した。
ニジェとガーラは急ぎ、カザマンスの支流、三艘の船を着けた場所からほど近い民家に向かった。
『おー、ニジェ様にガーラ殿。』
『アクラ大丈夫であるか。』
『ハハっ、わしはもうダメじゃ。ここまで来て何の役にも立たんかった。足でまといをさせてしまった様じゃ。』
笑いながらも息は絶え絶えだった。
『何をおっしゃいます。アクラ殿。私は知っております。バル王、いえその先代から、マンディンカの王の為、そして民の為、数々の貢献をなさってくださいました。干ばつになれば南のカサに、洪水に襲われれば北のマリ帝国へと交渉に。マンディンカの危機に多くの食糧、木材を手に入れられた事も全てアクラ殿の遣使としてのお力。どれだけ多くの民が助けられたことか。』
ガーラは横になったアクラに話しかけた。
『プラウマ(霊魂)は死後も生きるのじゃ。夢と同じじゃ。自分の分身を自分自身で見る事が出来る。睡眠という小さな死の中で、死後の自分と出会うんじゃ、、、わしは少し長い眠りに入る。そうじゃなぁ、、目を覚ました時の為に居場所を造っておいてくれ。世話になったムルの家辺りでよかろう。』
『そ、そ、それは、、』
『ニジェ、ガーラ。見えているものばかり信じてはならん。他の皆んなもな。』
その言葉を最後にアクラは口を塞ぎ、瞼を閉じた。
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『アゾ、レノーという男はどういう男だった?』
ニジェは聞いた。
『レノー殿は勇敢で心もお強い人でありました。そして、、なにしろ優しかった。』
アゾの目から涙が流れた。
『今この東の山にいる先頭部隊の中尉、バスチアの元上官で大佐という地位でしたが、このカザマンス制圧を断念して欲しいと何度もジルベール将軍に食って掛かり、、、最後には補給隊にまで格下げされました。常々、「俺はフランスの為に食糧を運ぶだけ。戦闘には加わらない」と言っておりました。』
射てしまったガーラは下を向いてしまった。
ニジェ達は、ムルの家の裏手に穴を掘り二人を埋葬した。
盛り土の一つには抱きかかえられるくらいの石を立て、もう一つにはカジュの木でこしらえた十字架がたった。
(アクラ。いえ、アクラ殿。居場所はつくりましたよ。神は違えど眠る場所は一緒です。)
『いつかきっと、この地にムルが帰って来る。ムルは何も言わずこの墓を守ってくれるに違いない。』




