静かなる内戦9~ニジェ
『ニジェ、まだ歩けるか?』
二日目の夜明け前、うっすら東の空が白んできた。
『私はまだ大丈夫であります。』
『強い体をしておるわ。』
『おや?』
『林が』
『きれた』
川沿いの密林がスッと抜けた。
三人の前には人の背丈ほどの靄〔もや〕に包まれた広大な葦〔あし〕の草原が現れた。
それは雲上のようであった。
夜はどんどん明けてくる。
『あの先に見えているのは。』
『カジュだ。二本。』
『門のように並んでいる』
それはとてつもなく大きなカジュの木だった。
『ここか?』
『しかしまだ二日と少し、、』
『ファルの小僧の足では三日かかったということか。』
『どうする?先に進むか?夜になるのを待つか?』
ドンゴがパプに聞いた。
『,,,いや、明るいうえにこの靄。
靄に隠れながら遠方は見える。一石二鳥。逆に幸運ではないか。』
『ほッ、そうだな。行くか?』
『ゆこう』
『ニジェ、前をゆけ。あのカジュの木の辺りをめざせ。』
『はい!』
『大きい声を出すんじゃない。』
『水の音を立てるな。擦るように歩け。』
『けど靄が深くて寸先の前もよく見えません。』
ニジェは、至る所に生えているフキの葉を抜き取って、ウチワ代わりに扇ぎながら進んだ。
『そんなに扇いだら、靄がわしらのとこだけ切れて、誰か居たらみつかるぞ。』
『いえ、上からでも見ないかぎり大丈夫かと。
一面、葦の原ですし、高い木はあのカジュのみ。わかりはしないかと。』
ニジェがそう答えると
『フラミンガ族などおらんだろうしな。』ドンゴが言った。
『カジュの下まで行って、何もなければ引き返そう。』
『これではとても人が住めそうにないしな』
三人は葦から頭が出ぬよう腰を屈めゆっくりと歩を進めた。
※上部画・童晶
パプとドンゴを描いてみました。