火蓋の上下 29~ファルの策略
『あっ!逃げやがった!』
3人の兵が追いかけたが、裏手は背丈ほどの草が鬱蒼としていて、
ドルンの姿はもはやその草木に飲み込まれていた。
『もう良い、小僧の一人や二人、逃げられてもかまわん!ここまでの案内で大助かりだわ!』
バスチアは一度銃を腰に戻した。
『それよりもだ、、疫病。』
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ハラが宮殿に駆けこんで来たのは、宮殿の屋根を塒にしている鳥たちがまだ目を覚ます前の事だった。
ドン!ドン!
『ファル!ファル!ファルはおるか!あっ、ファル様だ。』
ファルはハラの声に宮殿の扉を開け、外に出た。
『来たか!?』
『西の山を降りてまいりました。時機かと。』
『わかった。』
『ただ、、ドルンが掴まりました。』
『えっ!?』
『あのすばしっこいドルンのこと。何とか逃げ延びてくれることを願うのみです。』
『予想外だった、、』
ファルは苦虫を嚙み潰した。
『ハラ、ここからはオレがフランスと対峙する。お前は隠れ家で皆を守ってくれ。そこまでは行かせないようにするが。』
『本当にお一人で?』
『まあ、任せておけ!』
『では。くれぐれもお気をつけて。』
ファルは宮殿の中に戻ると、両手両足を縛られたディオマンシに声をかけた。
『今、ハラがやってまいりまして、部落の民達がやはり王はディオマンシ様がふさわしいと、、』
『おや。』
『わたしでは心もとないと。』
『そうであろう!そうであろう!』
ディオマンシはニタニタと笑い始めた。
ファルはディオマンシを縛っていたサニヤの腰紐を解き始めた。
『解いたら、お前はサッサと出て行け!お前の居る場所ではないわ!』
『もちろんですとも!すぐに。』
『おい!それから、コリを呼んで来い!あの女ども皆んなじゃ!今すぐにだ!お仕置きをくれてやる!』
『承知致しました。すぐに連れて参ります。』
ファルは腰紐を解き終わると、扉を開け、サッと階段を降りて行った。
すると、高床の下の湿った土の上でゴロゴロと転がり身体を泥まみれにしてから、ハラとマンサの家のある方角に向かった。
そこで、絞めた家畜の吐いた血を身体の所々に擦り付けた。
『よし!準備万端!』
ファルはマンサの家の前で、膝を抱えうずくまりフランス軍を待った。
紐を解かれ椅子の上にドカと座ったディオマンシの耳に、彼方から歩く音が聞こえた。
『来たな!コリ。』
しかしそれは軍靴の音であった。




