火蓋の上下 27~来た!
ドルンは宮殿が近づくにつれ、自分はもう終わったと思った。
この宮殿までの役目が終われば、殺られるか奴隷だと。
ムルに聞いたことがある。
捕らえられたカザマンスの諸々の部族達は、ゴレ島のエストレーというフランス軍の建てた巨大な要塞に集められる。そこから奴隷船に物のように積まれフランスに送り込まれると。
窓のない閉め切った板張りの船底に押し込まれ、糞尿と体臭で息すら出来ない異臭の中、
亡くなった者は海に放り込まれ、生き残った者だけが見知らぬ地で奴隷と化す。
自分の一歩は、もうこの白い悪魔に託すだけなのだ。
ドルンの両手を縛ったロープの先は自分の背丈の二倍はあろうかというフランス兵に、強く握られているのだ。
『ワリ!お前はもうよい。ここからはいらん。王を殺るだけに通訳は必要とせん。他の兵と一緒に粗探しの手伝いをしろ!』
『はい。』
ワリはドルンの方を一度チラと見て先頭の列から離れた。
膝下まである湿地の濡れた草を踏みつけ、しばらく続いた雑木林を抜けると、そこにはジョラの民家とは全く造りの異なる大きな高床の建物が現れた。
『ここだな。』
『間違いないですね。』
『ご丁寧にここだけ灯りが燈っておる。』
バスチアはドルンの方を向き宮殿を指さした。
ドルンは「ここです」と言わんばかりに頷いた。
東の空のガラクシアがほんのりとオレンジの川に変わった時であった。
パン!パパ~ン‼
パ~~~ン!! パパ~ン‼ パン!パン!
ドカドカ!ダン!ダン!
銃声の音と共に高床の階段をけたたましく駆け上がる軍靴の音が密林に鳴り響いた。
ギャアギャア!パタパタパタパタァ~!
目を覚ましたばかりであろう梢の鳥の群れが、一斉に空高く舞い上がり、渡り鳥の様に頭上のガラクシアを横切った。
駆け上がった一人の若いフランス兵が宮殿の扉を軍靴の踵で力いっぱい蹴り飛ばした。
バ~ン!!バッタ~ン!
扉は鍵が掛かっていなかったのか一蹴りで、左右に大きく開いた。
ギギギ~
コツコツコツッ
若い兵を階段の両脇に従えたバスチアが、後ろから一歩ずつゆっくりと階段を上って来た。
そして開いた扉の前まで来ると、軽く笑みを浮かべた。
『お前が王だな。』




