火蓋の上下 25~ハラとドルン
ハラとドルンは西の山に向け走った。
フランス軍がどこまで来ているのかを探りにだ。
『ドルン!待て。』
二人は宮殿からほど近い自分たちの家の前まで来ると家畜小屋に入った。
『いいか、なるべく音や声を出さぬようにそっとな。』
『なんでこんなことするん?』
『いいから、いいから。』
『だって、祝い用ってさ。まだ今からフランスが攻めて来ようとしてるんだろ?』
『静かにやりな。』
メェ~‼ゲぇ~!コケコケぇ!
ハラとドルンは一頭、一羽ずつ
『ごめんよ。ごめんよ。』
と言いながら家畜の首を絞めていった。
『足りないな、、マンサにも言ってあるから、、』
二人は向かいのマンサの家のヤギも数頭絞めた。
『こんなに食べれるのかい?ハラ。』
『祝儀だ!食べれる!食べれる!』
そう言ってハラはそれらを自分の家とマンサの家の前に放った。
『よし!ドルン!行くぞ!』
二人はなるべく音を立てぬようペタペタと走ったが、村の中にフランス兵の姿は見当たらなかった。
『まだ、来てはいない様だな。マンサが言っていたこの西の山のどこをいつ降りて来るのか、、』
『この山には道なんか無いよ。全くわからないよぅ。』
『じゃ、ドルン。二手に分かれよう。お前は北側の麓に。俺は南側に。』
『わかった。』
『見つけた方が、先に宮殿に向かって報せる。お互い気にせず。』
ハラは南の麓。斜面を少し上がった林に身を構えた。
その時であった。月明かりにほんのりと照らされた山の北側斜面に、ポツリポツリと揺らめくような明かりが下へ下へと移動する様子が目に映った。
(あ!あれが!あれだ!フランス! 灯りを点けて降りて来るなんて堂々としたもんだ。ジョラも舐められたもんだな。)
木々の隙間からぼんやり見える灯りは麓から中腹辺りまで続いていた。
(この灯り。ドルンから見えているだろうか?)
ドルンには「気にせず宮殿に向かえ」と言ったものの、ハラの歩は少しずつ北に向いていた。
(まずいな。)
『ou‘allez-vous? enfant mignon!!』
(どこへゆく?かわいい小僧!)
北側の麓に向かったドルンと、下って来たフランス軍の先頭が丁度鉢合わせてしまった。




