火蓋の上下 24~コロコロディオマンシ
ここにグリオ出身初の王が、ジョラ族に誕生した。
薄汚い小僧であったが、部族の伝承を伝えて来たグリオという身分はその知識においても申し分ない王であった。
『ンバイとマリマにも感謝せい。』
『しかし、オレなんかでいいのかな、、』
『良いからそこに腰かけてみい。』
ファルは二度ほど躊躇い、三度目にゆっくりと腰掛けた。
土壁の家に父、母と暮らしていた頃以来の椅子であったが、座り心地はそれの比ではなかった。
『妃も必要じゃな。』
『そんなこと、、まだ、、』
『3つ年上じゃが、、』
ムルはマンサの方をチラと見た。
『はあ?わたしィ?』
マンサは下を向いてしまった。
『ムル、そんなことは後でよい。今はフランス。』
『そうじゃな、それが先じゃ。祝宴もその後じゃな。』
『マンサ、コリ様とムル爺を隠れ家にお連れして!』
『ガッテン!』
マンサは顔を上げた。
『ハラとドルンは西に向かってフランスの動向を探ってくれ!それと、祝宴用に家畜を、、そうだな、鶏10羽、ヤギも10頭絞めといてくれ! 帰りの道中、言った通りに。』
『はい!かしこまりました!上様!』
『あッあたし、ガッテン!って言っちゃた!』
『もう、ファルは王だからな。ハハッ!』
ハラがそう言って笑った。
ファルが王になって初めて民に下した命であった。
『おい!わしは!わしはどうするんだ!』
『ディオマンシ様にはもうしばらくここでオレとお付き合いを。』
『なんだ!まだ、「様」と呼ぶのか!』
『そう呼ぶのも、もうしばらくですが。』
『わしも連れて行け!!』
『全く往生際が悪い!殺されないだけ増しだろう!何度も言っておるではないか!』
コリはよほど我慢がならなかったのか、両手でディオマンシをコロコロと部屋の隅まで転がしながらそう言った。
『さっ!行くよ!マンサ!ムル!』
ハラとドルンは西へ、コリとマンサ、ムルは東のディオマンシの隠れ家へと向かった。
話も進みましたので
【カザマンスの舞台『セネガル共和国』について簡単に説明】
国名のセネガルとはウォロフ語で[我々の船]を意味する。
アフリカ大陸の最西部に位置するセネガルは人口〔1300万人〕
首都はパリ・ダカールラリーのゴール地点で有名な〔ダカール〕
南部は熱帯雨林地域、残りの地域は乾燥地帯である。
1960年にフランスから独立。 国歌はウォロフ語で[コラを轢け!バラフォンを叩け]。
国章にはライオンが描かれているが、セネガルには野生のライオンは一頭も生息しない。国章の所以はセネガルの国土の形がライオンの横顔の様だからである。
文化遺産5件、自然遺産1件。
グラミー賞にもノミネートされたアフリカ全土のスーパースター〔ユッスー・ンドゥール]はセネガルのグリオの子息。
カザマンス地方はガンビア川により他の地域と隔てられた場所にあり、
首都ダカールとカザマンス南部シガンショールを結ぶ巨大客船フェリーは〔ジョーラ号]と名付けられている。




