火蓋の上下 20~アゾ
『あれ?今度は二人で入っていくぞ。』
『他のフランス兵はどうしたんでありましょう?』
『わからん。』
『どういたしますか?ガーラ殿。』
『うむ、、ここはひとまず様子を見よう。』
土塀を取り囲むようにその時を待っていたガーラ達30人はその行方を目で追った。
『良いか、アゾ。中に入ったらそう言うんだ。何を見てもおじけづくなよ。堂々としておれ。』
『はい。レノー殿。』
レノーとアゾは、今度は倒れているフランス兵を踏まぬよう、門から回り込んで宮殿の扉の前に立った。
レノーは部屋の右を、アゾは左を覗き込んだ。
中は煤の臭いと血の臭いが入り交じった、鼻を突く異臭に覆われていた。
小窓から差し込んでいる月明かりに青く映し出されたのは、自軍の山積みになった肉の塊りであった。
二人は瞬間ピクとなった。
そしてゆっくりと部屋の真ん中まで進むと、レノーは持っていた銃を腰から抜き、その塊りの山の上にポイと放った。
『頼んだぞ。アゾ。声を張って。』
アゾは呼吸を整えた。
(ん?誰か来た。二人?)
侵入した二人を察した屋根裏のニジェ達は弓を手に取り身構えた。
『今ここで弓を弾いた者達! よく聞いてくれ! 私はフランス軍の補給隊レノーという者だ!
銃は捨てた! もう武器は持ってはいない。お前達と話がしたい!』
「ん?誰だ?」
「全く訛りのないマンディンカの言の葉だ。」
ニジェは屋根裏に空いた四角い穴からそっと下を覗いた。
小窓の月の光は丁度二人の顔をスポットのように映し出した。
「あッ、あの顔は‼」
「えっ?」
「アゾだ!アゾの兄貴だ!」
「生きていたのか!」
『私はその弓矢で今殺されてもよい!我々フランス軍はお前たちにそれだけのことをしてきた!
この惨状は私の意図するところではないが、お互いに道を立てようじゃないか!』
「間違いない、アゾの兄貴の声だ。」




