火蓋の上下 18~西風に乗った軍靴の音
銃剣をせしめたフラミンガは、白い月を背に宮殿の門を出た。
『どうする? ニジェ。』
『問題はここからだ。ガーラ。』
『アクラ殿のご様子も気になりますし、ここは一旦引き上げ、、』
『しッ!』
『ん?軍靴の音?』
鳥も寝静まった暗闇。それは西風に乗ってフラミンガ兵の耳に届いた。
『ほら、来た。』
『まさか、今宵に現れるとは!』
『20?』
『そのくらいであります。靴の音でわかります。』
『だな。』
『後追いの補給兵に間違いありません。』
『この宮殿が受け渡し場所だったんだ。』
『たぶん。この村の目印はここくらいしか見当たりませんでしょうから。』
濃紺の空気の中、こちらに向かって来る集団の影がうっすらと揺らめいた。
『まずい!宮殿に戻ろう!』
『宮殿のどちらに!?』
『んーん?んんー?』
『どういたします?ニジェ様。』
『よし!お前らは土塀の外を囲め! ガーラ!外は頼んだ! 後の兵は俺について来い!宮殿に入るぞ!隠れそうな部屋を探して待ち伏せる!』
『承知いたしました!』
『銃は使うな、応戦はまずい。向こうは百戦錬磨の銃の使い手だ。まともに撃ち合ったら利があるのはフランスだ。使い方も分からん俺達には弓の方が早い!』
ニジェとガーラは走りながら事を決めた。
30人が外を埋め、15人が宮殿に篭った。
ニジェと弓の達者な15人は、焼け落ちた扉とレンズ豆を踏みつけ、そして倒れたままのフランス兵を飛び越えながら汚臭漂う宮殿に入った。
『ニジェ様どこに隠れましょう?』
一人の兵が聞いた。
ニジェは小窓から差し込む月明かりを頼りに、辺りを見回した。
裸足の足には、倒れたフランス兵の肉感が伝わってきていた。
まだ、くすぶっていたそこかしこの煙が小窓だけではなく、天井裏にも抜けていた。
『ん、あれ?天井裏?四角に抜けている。』
『ここだ!ここに入る!』
ニジェ達は卵から孵った子カマキリのごとく土台になる者あり、その背中から飛び上がる者あり、束になって這い上り天井裏に忍び込んだ。
『ん?酒の匂い?』
一人のフラミンガ兵が残っていた壺を傾け、中に人差し指を突っ込んだ。
ペロッ
『うんま!』




