火蓋の上下 14~橙色のガラクシア【ジョラの帰還】
『あれ?あそこで手を振っているのはドルンではないか?』
ハラが目を細めた。
『そうだ!!』
雨上がりの澄んだ空気の向こう岸、川の照り返しにキラキラと我が身を光らせながら手を振るドルンがいた。
『なんだよー!なぜお前、前にいるぅ?』
『濁流に流されて先を越しちゃいましたよー‼』
ハラとドルンはお互い歩み寄り、肩を叩き合った。
『よく、助かったなあ?』
『ハハッ、ていうのは嘘!船で来た。』
『船ぇ?』
ドルンは事の顛末を洗いざらい皆に話した。ニジェが沼にいた部族の一味であり、フラミンガを名乗っている事。そしてその王がニジェ自身だという事。3艘の船で以前のジョラの村に回り込みフランス軍を返り討ちにしようとしている事。
ファルはドルンの言葉を一つずつ頷きながら聞いていた。
『なんとなくだが、、、わかった気がする。』
『何を?』
ハラはファルに尋ねた。
『ニジェには守るべきものが二つあったんだ。ジョラの民とマンディンカの民。ジョラを守るためにディオマンシを撃つというオレの策略に乗ってくれたニジェ。しかしフラミンガを名乗ったマンディンカの民の為、これ以上奥には踏み入らないで欲しいという、、威嚇だけの弓。』
『ニジェはその二つを一度に?』
『フランス軍を返り討ちにというのも、ジョラの為、そして己の民の為。』
『ニジェがディオマンシの隠れ家のことをオレ達に黙っていたのも何か理由あってのことだろう。』
『ファルはニジェの事となると理由付けてでも良く思いたいんだな。』
ハラはファルを横目にニコと笑った。
『沼に一人で戻ってフランス軍の報告をしてくれた事、きっと嬉しかったに違いないよ。ニジェは。ドルンありがとう。』
ファルはドルンにお礼を言って頭を下げた。
『ところでお前、お腹は治ったのかい?』
ハラはドルンに聞いた。
すかさずファルが言った。
『嘘っぱちに決まってんだろ! なッドルン?』
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ディオマンシの隠れ家の庭は、橙色の中に幾つもの黒いボーダーラインの木の影をつくりだした。
強めの西風が吹く夕暮れだった。
『ギザ~!もう暗くなるよ!戻っておいで~!』
ギザの母親が辺りにいない我が子を呼んだ。
『ママぁ~‼ ファル達が戻って来たよ~!』
そのオレンジのガラクシアの空の下、ニジェ達フラミンガがフランス軍に無数の弓を放っている事など、この時はまだ誰も知るはずはなかった。




