火蓋の上下 13~仕掛けの話【メッサとヘレ】
『しかし、これを誰が?』
メッサはヘレに問うた。
『ヘレ、お前はこの隠れ家の事を知っておったなあ。』
『はい。』
『ニジェ以外に誰か出入りしていた者に心当たりはないか?』
『ディオマンシ様はもちろん、他にはカマラ殿、パプ殿、ドンゴ殿だけかと。』
ヘレは、自分だけが知っていることに恐縮し身を縮めてメッサに応えた。
『ヘレ、言っておくが、もう「様」や「殿」は付けんでもよい。身の毛がよだつわ。』
『あッ申し訳ございません。』
『カマラ達がこんな仕掛けをしたとは思えん。ニジェにしろ他の誰かがこんな小細工をしたら、すぐにばれる、、、見つかろうものなら、即、、』
そう言ってメッサは、手刀で首をチョン切る仕草をした。
『ただ、』
『ただ?』
『日が沈む頃になりますと、ディオマンシもカマラ達3人も宮殿に戻って休まれますので、宵のうちは誰も。』
『夜かあ、、知っておるのがニジェだけなら、その時間に侵入出来るのは、、』
『ニジェがやったのであれば、わたしらに隠れ家の事を秘密にしていたのも道理が立つ。』
『と、言いますと?』
『きっとこの仕掛けのせいであろう。』
『仕掛け?』
『そう。誰かに隠れ家の事を話せば、おのずとどこかから噂も広まり、探りを入れる民によってこの仕掛けもばれてしまう可能性も少なからずある。』
『しかし、メッサ様。これを一人でやるには至難の業。一度取り付けた梁を下ろして切断し、幾分の隙間なくまた天井に戻す。とても一人では。』
『そうだな。しかもだ、二日掛けてはばれてしまうゆえ、一日、いや一晩で片付けねばならん。夜が明ける前に。』
『では数人?』
『いや、数人ではきかんであろう、、数十人。』
『それでは、誰か男衆が?』
『多くのジョラの男が一晩中出掛ければ、ここの女衆は何か察するであろう。しかしそんな話は聞かんし、女衆の誰も知らん。女達に聞いてみればよい。夫が一晩空けた日があったか。』
『では、聞いて参りましょう。』
『ハハッ、ヘレ、無駄じゃ無駄じゃ、そんな日はきっとない。』
メッサは梁を這う縄を指さした。
『結縄を知っておる者なぞ、このジョラにはおらん。ましてや結べる者なぞ。』
『では?』
『たぶん、違う部族だ。』
『えッ⁈ 』
ヘレは目を真ん丸にして驚いた。
『ニジェはマンディンカからの難民であったのう。』
『と、言うことは?』
『この密林のどこかに、マンディンカの残党おる。』
『ファル達は大丈夫でありましょうか?』
『問題はニジェだ。』
物見の床下からメッサに掬い上げられ泣き止んだギザは、二人の話をよそに、まだ遊び足りないのか表に遊びに出かけて行った。




