火蓋の上下 12~結縄(けつじょう)
『なにごとですか?!この物音は?!』
第6夫人のヘレが慌てふためき王の間に入って来た。
その後ろから女衆もぞろぞろ部屋の様子を覗きに来た。
『メッサ様!ロダ様!ご無事ですか?! お怪我は?』
『怪我は大丈夫だ。梁だけが崩れた。立て柱は立っておる。』
梁は片側だけ外れ、天井から斜めに床をも突き刺した。
『椅子どころか床にまで穴が開いてしまった。』
その振動はまだ空気中を彷徨い、女衆の身体の芯までをも震わせていた。
『どういう事だ?』
メッサは落ちた太く大きな梁の前までゆっくりと3歩進んだ。
落ちたブビンガの梁は赤く染まった年輪をむき出しにしていた。
『一本木ではないな、綺麗に切断されて輪切りになっている。何かで繋がれていたみたいだ。』
『なぜ、一本の梁をわざわざ。切る必要などあるまいに。』
『あれ?これは何かしら?』
ロダが見つけたのは二本の縄だった。
落ちて斜めになったブビンガの梁の上を二匹の蛇の様に縄が這っていた。
そのそれぞれの縄の先に付いていたのは、鎹であった。
『これだけで止めていたのかい、、ちょっと見せてごらん。』
メッサはそう言うと、縄と鎹を手に取った。
『梁の上で止めてあったようだ。下からはこの細工は見えんな、、』
『あれ?これはラフィア椰子の縄。かなり頑丈な縄だ。どれどれ。ん?』
メッサはクルクルと縄を回しながらまじまじと眺めた。
『ン?この結び方は! 結縄!』
『結縄?』
『ああ、この結び目で文字や数を表すんだ。私には読めないが間違いない。代々の王をこの結び目で伝承していく風習もあるんだ。』
『ではこの鎹を抜いた縄の先はどこから?』
『梁の先は下からは見えないが、、ちょっとその縄を引っぱってみな。気をつけな、反対側も崩れたら大変だ。』
『ガッテン!』
『怖い!怖~いよ~‼ 誰かあ~!』
『ん?ヘレ、もう一回引っ張って。さっきヘレが言っていた物見の下辺りだ。』
『怖いよ!怖い!落ちるぅ!』
女衆は皆、物見の部屋に行き、床下を覗き込んだ。
暗い穴倉にいたのはギザだった。
『どうしたんだよ!お前ったら!』
ギザの母親が怒鳴った。
『縄を引っ張らないで~、ブラリンコにぃ~』
メッサはヒョイと床下に飛び降り、ギザの腕に絡んでいた縄を解いた。
『ロダ、私がこの縄をゆっくり引くから、梁の鎹を見て来ておくれ。』
ズルズルズリズル、、
結縄は梁の上を登るように這っていった。
『メッサ様!縄が動いております!』
『この床下の穴倉に繋がっていたというわけか、、』
『そのようです!』
『という事は、もしあそこにディオマンシが座っておったら、、この結縄を引けば、、』
『引けば?』
『椅子もろとも』
『もろ共、』
『木っ端微塵。』




