火蓋の上下 11~砕かれた王の椅子
『なんとまあ、豪華な造り。』
第4夫人のロダがうっとりするほどの出来栄えだった。
『隠れ家ではなく、ここが本当の宮殿だわ。』
第5夫人のセグは苦虫を嚙み潰した。
『いつの間に。黙って。』
鬱蒼とした木々や草花に囲まれたディオマンシの隠れ家は、民が今まで見てきたそれとは全く違う宮殿であった。建物の周りはカジュとブビンガの若木が整然と並び、あと数年もすれば宮殿を取り囲む巨大な壁になるであろう事が予測できた。
宮殿の部屋は5つに分かれ、王の間と寝室、カマラやパプ、ドンゴが使うはずであった数部屋。物見の部屋。各天井にはブビンガの梁がめぐらされ、床は寸分の隙間なく幾何学模様に張られていた。あの隙間だらけの宮殿とは全く異なる緻密な造りだ。
離れには食糧の備蓄倉と武器の倉が一つの扉を境に一対をなして並んでいた。
倉の後ろにはカザマンス川の支流を利用した、飲み水にも排水にも適した水路が造られていた。
この隠れ家への避難を取り仕切っていたのは第2夫人のメッサだった。
『おいおい、お前たち静かにしな!』
このもの珍しく豪華な宮殿の造りに、逃げて来た理由も分からない子らは、皆はしゃいでいた。
ギザという8歳の少年がヒョイと王の間にあったカジュの椅子に腰かけた。
『ダメダメぇ!早く降りなッ!』
メッサがギザを椅子から引き離そうとしたが、ギザは椅子の背もたれにしがみついて駄々をこねた。
『いいかい、よく聞きな。この椅子は次の王に座ってもらう。むやみやたらと座るんじゃないよ。』
メッサは静かに諭した。
そう言われたギザはしぶしぶ椅子から降りるとプイと横を向いて、別の部屋の探索に向かった。
『ふ~、ガキどもは大変だ。何もわかってないからな。』
『メッサ様!メッサ様!』
『なんだい?ロダ?どうした?』
『ギザが見つけました。』
『何をだい?』
『この隣の物見の部屋の下にもう一つ、大人一人が入れるくらいの、、、部屋というか隙間というか、、』
『地下という事かい? 穴?』
『そんなような物です。』
『ん?なんだ?』
グわわ~ン‼ グワ~ン‼ ズズ~ズん‼ ドーン‼ バああぁ~ム‼
バラパラパラパラッ~‼
『わーあ!アブな~い‼』
『ひゃ~!』
宮殿は地響きをたて大きく揺れた。
天井を張っていたブビンガの梁が片側だけ外れ、巨大な振り子となった大木は王の椅子を狙い撃ちするかの様に木っ端微塵に砕いた。
メッサとロダは両手を広げて部屋の壁に張りついた。
二人の目の前に砕けて粉々になった椅子の木片と木屑が煙となって飛んできた。




