火蓋の上下 7~レンズ豆
宮殿の中は外の物音など気づかないくらいのどんちゃん騒ぎであったが、ニジェとガーラはゆっくりと音を立てずに外壁伝いを一周した。
『外には誰もおらんようだ。』
『酒に溺れて警備が手薄だ。』
『まあ、数年もの間廃墟になっていた村だ。人が現れるなぞ思ってもいないであろう。』
『フランス兵がおった部屋には外からのくり抜いただけの窓が3つ。』
『裏には出入口は無いようだ。』
『となると、表に出るにはこの扉だけが出口か、、』
『裏の部屋からは声はしない。皆、酒を呑むため一部屋に集まっておるという事だな。』
『ニジェ様、長居は危険です。そろそろ。』
『うむ。』
二人が腰をかがめ宮殿の門から外に出ようとすると、入って来た時には気づかなかった10ほどの麻袋が土塀沿いに並んでいるのが目に止まった。
『なんだ、これは?』
ニジェがそう言うと、ガーラが麻袋を持ち上げた。
『一つ30キロはあるな。』
そして一旦下すと、袋の口を開けた。
『レンズ豆だ。』
『レンズ豆?』
『そうです。フランス軍の常備食です。下処理がいらない豆。火が通りやすくてすぐに食せる。栄養も豊富であります。』
『では、一口。』
ニジェは開いた袋に手を突っ込んだ。
パクッ!
『あー!ニジェ様!下処理がいらないとは、そのまま食べれるという意味ではありませんよ!』
オエッ!
ペッ‼
ニジェは口の中の豆を、空になった幾つかの麻袋の上に吐き出した。
すると何かひらめいたのか
『では、この空いた麻の袋を拝借。』
と言って、シワくちゃになった麻袋を5袋束にして、門の外に出た。
『皆!俺について来い!』
『どちらへ?』
『いいから、いいから。』
ニジェはニコと笑った。
『おッそうだ。誰かここの見張りを頼む。この門からフランス兵が出て行くようなことがあったら、人数を数えておいてくれ。出て行った兵は、あとから追わねばならんかもしれんからな。把握しておかないとな。』
『どうする御つもりですか?』
『決まっておるだろ?! またと無いチャンスじゃないか‼ 』
そう言うと、ニジェはあの懐かしいムルの家に兵を引き連れて向かった。
太陽はまだ真上にあった。
レンズ豆
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