火蓋の上下 6~宮殿の小窓
『ここだ。ここが、数年前まで、ディオマンシが住んでいた宮殿。』
『バル王に比べたら小粒だな。』
『しかし、この人数なら裕に寝泊まりできる。』
ニジェとガーラが宮殿を取り囲む土塀の前まで歩を進めた時であった。
『ニジェ様、聞こえますか?』
『うん。聞こえる。』
『人の声。』
『何か騒いでいる。
覗いてみるか? ガーラと俺で行く。お前らは待っておれ。』
ニジェとガーラは自分達の兵を土塀伝いに待たせ、腰を落としゆっくりと門から入っていった。
『見張りはおらない様ですな。』
『うん。』
宮殿に近づくにつれ、声はどんどん大きくなっていった。
『ん?笑い声? どんちゃん騒ぎ? 何語だ?』
『マンディンカの残党ではないな。』
ニジェとガーラは宮殿手前のカジュの木の陰に隠れ、耳をそば立てた。
『フランス語じゃないか?この言葉の抑揚は。』
『えッ、フランス?』
『たぶん、、間違いない。』
『何をしているんだ?』
二人は宮殿の土壁をそろりそろりと、声の大きくなる方に向かった。
『この部屋だ。』
ニジェはその部屋の土壁をくり抜いただけの小さい小窓に目をつけた。
その窓は外からのカジュの木の葉が覆いかぶさっていて、中からは外の様子が見えにくい事に目をつけた。
『ガーラ、ちょっとこの木に登ってみる。』
『ニジェ様、木登りは、、』
『ジョラでな、親友に習った。親友じゃないぞ、心友だ。』
ニジェは音を立てずにスリスリと木に登ると、四角い窓から中の様子を窺った。
『1,2,3,4,、、』
見つからぬうちにトントンと木を下りた。
『ガーラ、やはりフランスだ。50人はいる。酒を呑んでいるようだ。顔が赤い。寝てる奴もおるし騒いでおる奴もいる。へんてこりんな帽子を被ってる、このクソ暑いのに重装備だ。』
『顔が赤いのは元々だが、、帽子はフランス軍だな。カザマンスの兵は帽子なぞ被らん。』
『しかし、なぜここに? ドルンが言うには、マンサが見たのはこの先の小高い山だ。』
『フランス軍にしては人数が少な過ぎる。私の予想ではたぶん、後方支援連隊。』
『なんだそれは?』
『奴らだって飯は食わなきゃならない、銃を使えば実弾も減る。それを補給する部隊だ。』
『なるほど、、ではここで次の補給を待っているという事か、、』
『その通り。』
『では、こいつらをやっつけちゃえば、、、』
『そうです。あの小高い東の山にいる先鋭隊の、』
『補給が』
『途絶える!』
 




