火蓋の上下 4~サニヤとマンサ
カザマンス川の流域に多くの雨をもたらした雲は、夜のうちに東の空に消えて行った。
中州に寄り添うように避難していたファル達一行はしばらく川の流れを見ていたが、フランス軍の動向も気になり、年寄子供を若衆数人に任せ、再び自分たちの村に向かった。
太陽はまだ出てはいなかったが、東の空だけは淡い紫から橙色に変わり、川向こうの密林の木々の影を黒々と映し出していた。ファル達は川べりより奥の林を、水の流れる音を頼りに歩を進めた。
そして時々、川の位置を確かめるべく、木々の隙間から流れを覗いた。
『ひどい雨だったな。』
『ハラ、それよりも、ドルンだ。残して来て失敗だった。付いてあげていれば良かった。』
『まさかこんなに降るとは思わなかった。しかし、ああ見えて身体能力には長けている。腹を下そうがどこかの木の上にでも掴まっておるであろう。』
『なら、、いいんだが、、』
ファルは気になって仕方なかった。
『あれ? また誰かいる。』
『ん? 皆静かに。』
木々の間からまだ流れの強い川岸を覗くと、4人の人影がうずくまって微かに揺れていた。
『誰だ? また女ではないか?』
既に川べりのシダは雨の滴を朝日に光らせていた。
『声をかけてみるか?』
『うん。』
ファルとハラは、そこに生えていた木に身を隠しながら声をかけた。
『誰だ!そこにおるのは!』
女4人は同時にこちらを振り返った。
『その声はぁ!?』
ファルとハラは隠れていた木から顔を半分出した。目が合った。
『あっ!サニヤ様!』
『あッ!ファルとハラ!』
サニヤは真っしぐらに、ファルのところに駆け寄って来た。
『わー!良かったあー! この雨でもうダメかと思ったぁ!』
そう言うとサニヤはファルとハラの足元で泣き崩れてしまった。
『どういたしました? サニヤ様。なぜこんな所に? サニヤ様ともあろうお方が泥だらけで、、』
声にならないサニヤの横で、付き人の女が話し始めた。
『聞いているかい? マンサとは出くわしたかい?』
『おう、あったあった。後ろにいる。』
『マンサも知らぬ事を伝えにここまで、、コリ様がサニヤ様に託したのであります。』
『で、ジョラの女子供は? ディオマンシは? 』
『それを伝えに。』
するとサニヤはスクと立ち上がり、涙を拭くと、
『あのディオマンシの野郎、隠れ家を持っていやがった。全くいけ好かん‼』
『隠れ家あー!?』
『しかし、ディオマンシは縛りつけた!』
『おー!ようやったー!』
『マンサから聞いておると思うが、フランス軍が来ている、西の山。』
『まだ攻めて来てはいぬか?』
『私たちが出て来てからはわからぬが、その隠れ家に皆を避難させてある。』
『ほー。ディオマンシは初めて民に良い事をしてくれたの!』
『アホ! 何が「良い事」じゃ。ニジェはおるかい?ニジェは知っておったらしいから聞いてみたい。』
『んー、ニジェは今ここにはおらん、、』
『どうした?』
『また、後で話す。』
すると追いついて来た後ろの列からマンサが駆け寄って来た。
『サニヤ様~‼』
『おー!マンサぁ~‼』
二人は肩を叩きあってお互いを抱きしめた。




