火蓋の上下 3~激流と雫
カザマンスの流れは大きく右に曲がった。
フラミンガの兵は一斉にブビンガで造った頑丈なオールを水面に突き立てた。
『曲がるぞ‼ 曲がるぞ~!ぶつかるなー!』
舟はカーブの大きなうねりに乗るとオールを使うまでもなく、スピンを繰り返し、波と一緒に吸い込まれる様に曲がって行った。
【そろそろこの辺り】
さっきまで船酔いしていたドルンが立ち上がった。
『俺はフラミンガではないからな‼ ジョラに戻る!』
曲がり切ったばかりの船は遠心の力そのまま、川岸の高い波にギコンバタンと乗っていた。
舟がその高いうねりに乗った瞬間であった。
『えいや‼ 』
ドルンは船の欄干に飛び乗ると勢いそのままジャンプした。
『あッ!』
兵は皆、口を開けポカンとドルンに視線を送った。
ヒョ~イ‼
ドルンは岸から大きく突き出た大木の枝に空中ブランコさながらに、飛び移った。
その身体は雨を弾きながら枝とともに大きく揺れた。
『じゃあなー‼ 』
ニジェ達はその声を耳にするまでもなく、激流を遥か先にと下っていった。
ブビンガ造りの三艘は激流にまかせ、大雨で中州に避難していたファル達民兵を越え、一気にジョラの村までも越えて行った。
三日は掛かるジョラへの行程がわずか数時間であった。
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『退屈で、退屈で仕方がない。』
一人の補給兵が、ディオマンシが置き去りにした土壁の宮殿の一室でつぶやいた。
『いつ来るのやら、、目ぼしい物も何もない。』
『次の食糧班を待っていたら、俺達の食糧だって切れる。』
フランス軍補給兵数人は車座になって、獲ってきた木の実をつついていた。
床にゴロンと寝転がったフランス兵の目の先に映ったのは天井を走る1メートル四方の正方形の切れ目だった。
『なんだ? あの天井?』
『ん?』
『あくのか?』
『おい、肩車しろ。』
『とどかぬか?』
『大丈夫だ。』
肩車された兵はバヨネット(銃剣)の柄頭でその四角い部分をポンと叩いた。
すると、いとも簡単に天井に間口が開いた。
『なんだ、なんだこの屋根裏は?』
兵は肩車されたまま懸垂し天井裏に飛び乗った。
『どうだ?何かあるか?』
『真っ暗でよくわからないが、、この匂いは、、』
と何かにつまづいた。
パッ~リ~ンッ‼‼ バシャッ!
『おーい!どうしたぁ? 大丈夫かぁ?』
床にいた数人の兵が天井を見上げた。
『あった!!あった!! カジュの酒だぁ!!』
『本当か!!』
『そいつはスゲーや!』兵からは大歓声が揚がった。
天井からは、割れた壺から漏れ出たカジュ酒が滴り落ちて来た。
兵士達は我先にと、天井を見上げ大きな口を開けながら、落ちてくるカジュの酒の雫をほうばった。
『ハハッ!慌てなくていいぞ!天井裏にはカジュ酒の壺がたわわにあるわい。』




