【第二幕】火蓋の上下1
稀にみる豪雨であった。
水面を叩きつける雨はけたたましい音を立て乱打した。
ドルンは立っていた。カマラを打った沼の畔だ。
『ニジェ~‼ ニジェ~‼ 』
いつもは物静かなドルンが、雨音より大きな、ありったけの声を森に響かせた。
向こう岸の草が揺れた。二人の裸の男が木々の間から辺りの様子を窺う様にゆっくりと現れた。
『誰だ!』
『ドルンだ!』
現れたのは、ニジェとガーラだった。
二人は雨を気にすることなく、ドルンの方に向かって歩いて来た。
『どうした? ドルン。』
『お前、何者なんだよ!?』
『フラミンガの王だ!』
すかさず、ガーラが答えた。
『フラミンガぁ? 王ぅ? フン! 全然怖くないよ。ただの友達じゃないか!』
それを聞いたニジェはニコとした。
『なぜ戻って来た?』
ニジェはドルンに聞いた。
『約束したろ! カマラを殺る策を練っていた時にみんなに! フランス軍の情報は、すぐに入れろと!
だから、お前に伝える為に戻って来たんだよ!』
ニジェは目を丸くした。
そして、ドルンの肩を抱き、背中をポンポンと叩いた。
『皆んな怯えてたぞ!何してくれんだよ!』
『ごめん、オレ達にはオレ達の生き方があってな。』
『ファルもお前らの罠で怪我をした!大したことはなさそうだけど、、』
『フランス軍はもう、村の西の山に陣取っているらしい。』
『なぜわかった? 誰から聞いた? 』
『マンサが報せに来た。女の子なのに夜道走って。』
『わかった! オレ達にとってもフランス軍は敵だ。向かう!』
『どこへ?今からじゃ、手遅れかもしれないよ!ファル達に追いつくことすら不可能だ。』
『こういう時が必ず来ることはわかっていたからな。ここにオレ達が移り住んでから色々と準備はしてきた。ちょっと来い。』
そういうと、ニジェはドルンに手招きし、ついて来いと言わんばかりに森深く分け入った。
道があった。沼の裏手にはカザマンス川の支流が流れていた。
『見ろ!』
『うあああ!』
そこに浮かんでいたのは、20人は裕に乗れるブビンガの木で造られた三艘の船であった。
すると林の中からアクラがずぶ濡れになって現れた。
『お休みになっていて下さい。アクラ殿。体調が悪化しますゆえ。』
しかしガーラの言葉を遮ったアクラは言った。
『この船はわしが30:5:3の比率で設計した船だ。急な流れでも易々とは転覆せぬ。いわゆるクルアーンでいうところのノアの箱舟と同じじゃ。この雨で勢いを増したカザマンスの流れ、そして、この子の報せ。我々は本当に神の民になった様じゃな。天まで味方しよる。』
アクラは大きく笑った。
『マンディンカの民としての最後の報復。』
ニジェが応えた。
『この流れにまかせ、ジョラを抜き去り、一気にフランス軍の裏手に回るんじゃ!』




