静かなる内戦6~ニジェ~
新月のカザマンスは闇だ。
黒い空気が、漂う壁のようだ。
獣の遠吠え、木々や葉の擦れる音、ギギと鳴く虫の声。
全ては川の流れの音とともにコダマの五線譜を弾いている。
太古のカザマンスの民は猛獣に襲われることを恐れて深い眠りにつくことがなかったと聞く。
密林に分け入っていく三人の高揚感がその原始の血を蘇らせ、
三日三晩眠らずに歩き続けることは苦もないことのようだった。
『投石?敵?とはどういう意味でありましょうか?』
パプが答えた
『こうなったのもあのファルのせいじゃ。ファルを知っておるだろう?
あの小僧がこの奥に人がおると、訳の分からんことを言うからじゃ。』
『責めるなら、ファルを責めるんじゃな!』
ドンゴは笑いながら言った。
『この籠の中の木の実ってのは何でありますか?』
『バオバブの実じゃ。』
『バオバブ、、その実なら投石代わりに使えたんではありませんか?』
『うるさい!お前の口の挟むところではないわ!』
パプは右手に持っていた槍でニジェの尻を突っついた。
『痛ッ!』
『よいから、前を向いてサッサと歩け!』
パプとドンゴは、右手に槍。左の肩には矢筒。背中には弓を背負っているだけの軽装だった。
『林の中にむやみに入るんじゃないぞ。川伝いを真っすぐ行くんじゃ。さすれば三日後に広大な葦の原が現れるらしい。』パプが言うと、
『もしこのまま森が続くようなら、即刻引き返し、ファルをしょっぴく。それだけの事だがな。』
またしてもドンゴは笑った。
『しかしドンゴ様。ファルがそんな大それたウソをついて何の利益があるというのでしょう?』
『お前はいちいちうるさいのお。知るか!そんなこと!』
と、今度はドンゴがニジェの尻を突いた。
『黙って前を歩けばいいんじゃ!』