静かなる内戦58~もぬけの殻
『さあ、この山を下るぞ!』
バスチア中尉は声を上げた。
フランス軍300人は鬱蒼と生い茂った密林の山深く、木々の並びに逆らう様な直線を描き、整然と、泰然と列を組んだ。
『銃の装備は良いか!』
『はっ‼ 』
百戦錬磨の兵士でも、緊張感からか首筋にはシッポリと大量の汗をかいていた。
『ワリ!お前は先頭部隊に入れ! サラはお前が連れて行け!』
ワリとは通訳兼奴隷として引き連れて来たマンディンカの民だ。サラとはポワトバンという優美な外観だが力の強い猟犬である。
『わかりました!』
フランス軍は草木を掻き分け、ジョラの村に歩を進めた。
夜が明けたばかりの早朝のことだ。
『朝早いというのに鶏の声もしないな、、』
山裾を下ったフランス軍は一番西にあった掘っ立て小屋には見向きもせず、最初の民家に迫った。
エザの家であった。
『ワリ、戸を開けろ。』
兵に指図されたワリは勢いよくその家の戸を開けた。
バッタ~ン‼‼
『toute personne gui ne vevt pas se
faire tirer dessus!! leve ta main‼ 』
『撃たれたくない奴は手をあげろ‼ 』
ワリは叫んだフランス兵とほぼ同時に、同じような口調で、その意味を伝えた。
数人の兵は銃弾を、その壁に打ち込んだ。
一人の兵は次の部屋の戸を足蹴りしながら開け、またしても銃を放った。
『ん?誰もいない、、』
兵が辺りを見渡すと壁の至る所、蜘蛛の巣だらけであった。
『住んでおらぬようだな。』
すると、他の民家に襲撃をかけた兵が走り込んで来た。
『誰もいない。どこの家もだ。たぶん、数年住んでおらんようだ。もぬけの殻だ。』
『バスチア中尉殿を呼べ!』
『何ぃ!誰もおらん?!』
『はい、この辺りの家々、手当たり次第襲撃を掛けようと致しましたが、、』
『逃げたのか、、』
『かなりの年月が経っているようであります。レインスパイダーの巣屈となっていますゆえ。』
『ちっくしょー‼‼』
バスチア中尉は腕組みをしたまま、隣にいたワリを軍靴で蹴り上げた。
『ヤギや鶏は?』
『それも、死殻すら残ってはおりません。』
『連れて行ったな、、、ということは滅びたのではなく、どこかに移住したという事だ。』
『おそらく。』
『サラを家畜の柵らしき場所に連れて行け! 匂いを嗅がせろ。家畜の匂いは数年経っても消えはせぬ。』




