静かなる内戦57~言霊の木
『いえ、誰とも。』
『嘘を言うでない!今、確かに大きな男と話しておった!』
ドンゴは持っていた槍をニジェのつま先の辺りにザクと突き刺した。
『本当であります!』
ニジェはさっきまでもたれかかっていた大木を指さした。
『それはこの、ブビンガという大木でありましょう。』
『ブビンガぁ?』
『はい。神が宿っておる木でございます。沼や川の湿地には沢山ありましょう? そうです、この地の林を創り出している木でございます。』
そう言うとニジェは大木の前まで進み、前後左右に舞うように体を揺らした。
『ほれ、このように。月明かりでわたしの影が大きな幹に映りましょう? 一際大きく。』
『それがどうした?』
『まるで、木の下にもう一人いる様に。』
『むむっ。』
ニジェはパプとドンゴの前まで進むと、
『わたしはこの影を相手に話をしておったのです。』
『馬鹿か、、?』
『わたしはマンディンカの民。それゆえジョラでは知っておるものも少なく、度々この辺りを訪れ、こうして影を相手に、、』
『よくわからん。』
『ブビンガは言霊の木でありまして、わたしが話かければ木霊のように返事をくれます。』
『ほら!』 【ホラッ!】
『ほらね。跳ね返った。』
『フフッ、ドンゴ、お前やってみろ!』
『ほら‼』 【 ホラッ‼‼ 】
『おー!』
『ドンゴ!お前まで「ほら!」じゃなくていいんだ!』ハハッ!
パプは笑った。
『しかし、くだらん。子供の遊びじゃ。』
『ここに来ることをお許し頂けないでしょうか?』
『好きにせい。』
『そんな事よりもだ。お前にやってもらいたい事がある。秘密にできるか?』
『なんなりと。』
『また荷役の仕事だ。木を運んでもらう。』
『どこへですか?』
『新たに造るディオマンシ様の、、、隠れ家じゃ。』
パプがそう言うと、ドンゴが、
『隠れ家ゆえジョラの民には頼めんからな。』
とニヤリと言った。
『では、他には?』
『マンディンカ人のお前一人でじゃ!!』
満月に吠える二頭の狼は笑った。
その笑い声もまたブビンガに跳ね返り、森に響き渡った。




