静かなる内戦55~ガラクシアス
『誰だ!お前! ここはオレのねぐらだ!』
『もう少し寝かしてもらえぬか。』
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『オレも一人だ。くれてやる。こんなねぐら、いつでも作れる。』
ファルが初めてニジェと出会ったのはこの時であった。
それから二年余り、ジョラの民は森を開拓し、新たな高床の宮殿建設に駆り出されながらも、大規模ではないが稲、トウモロコシ、綿花に至るまでこの酸素をたわわに含んだ団粒構造の肥沃な大地の恵みにより、あっという間に芽を出し実をつけた。種類は少ないが、木の実も木材ももちろん豊富であり、家を築くにも火を焚く事にも欠かなかった。
満月の夜、ニジェはこの村の外れ、更に東の森深く、幾たびか火を起こし煙を高々と舞い上げた。
密集した木々の間から立ち昇る煙は数キロ先からでないと確認はできない。
そこに居を構えているジョラの部族達からは、そびえる木々の上からでしか発見は出来ないのだ。
ニジェは満月の度、夜が明けるまで火を焚き、マンディンカに生きている証を示した。
しかしその煙を見つけてもらえているのかは全くもって定かではなかった。
6度目の満月の夜。雲のない西から東へ風の吹き抜ける水色の宵であった。
カザマンス川の流れと並行して天の川も東へ流れるように瞬いていた。
サッ、ガサッ、ササッ
『ニジェ様 ? ニジェ様。』
暗闇の中、静かに囁いた声はガーラであった。
『ようやく、この狼煙を見つけました。ご無事でおられましたか?』
『おー!ガーラ!お前こそ!』
『申し訳ございません。この長く続く森の中では狼煙を探す事も思うようには、、丸い月の夜には皆で探したのですが、、なかなか。』
『今宵、一人の民が空を見上げ、ガラクシアス(天の川)が流れていると言い出しまして。』
『流れているとは?』
『ニジェ様の揚げた煙が東へと流れ、ガラクシアスと重なり、まるで天に本物の川が流れているようでありました。』
『ほう~』
『それを見て皆で「あっこれはニジェ王様の狼煙」だと。』
『で、ガラクシアスの夜にガーラ登場というわけだな。』
ニジェとガーラはニコと笑った。
『皆は元気か? フラミンガの地は見つかったか?』
※ガラクシアスとは古代ギリシャで天の川の事を指します。
現代のギャラクシーの語源といわれます。
地中海を挟んだギリシャとアフリカの文明の交流を想像して、この言葉を採用しました。




