静かなる内戦54~詔(みことのり)
『この辺りからか。』
神具を背中に背負ったムルは二度三度足元の土を蹴った。
『水を含んだ湿地だが住めぬことはないな。稲やトウモロコシに水を引く手間も省けそうだ。』
ムルはこれから移り住む大地をトントン!と踏みしめた。
『しかし、この鬱蒼とした密林を切り開くのは容易ではなさそうですね。』
共にここまで歩いて来たハラがムルに声をかけた。
『この湿った土では家は作れまい。整地をしながらこの豊富な木々を使うしかないが、誰もその方法をしらんじゃろ? 大変なことじゃわい。』
『一からですね。』
『あとはディオマンシのやり方次第だ。 また無謀な事を言わねば良いが、、』
1、この土地の全てはディオマンシとそれを世襲した者の物とする。
2、収穫した全ての食糧は神に捧げる儀礼後、全て王の蔵に貯蔵する事。これを貢租とし、民にはこの貯蔵庫から必要に応じて分け与える。
3、如何なる家畜も全て王の所有とする。
4、分け与えた土地は二世一身法を適用し、これより二世代目の者が死去したおり王に返納する事。
5、10を過ぎた男の全てを民兵とする。
6、武器となる物は全て王の保管とする。生起の都度それを貸与する。
付則として、カマラを軍。パプを農地、食糧。ドンゴを民の管理長とする。
『よいか、これをカヌの一族に伝えろ。グリオの唄にのせるのじゃ。』
これは文字を持たないこの部族の鉄則であった。
『なんだ!これは全て「全て」じゃないか!』
ムルはこの詔を聞いて愕然とした。
『これから険しい開拓を強いられる民に対する御触れではないわい‼ まだ、農地も貯蔵庫もないうちから! バカにしおって!』
しかし、ムルも民もこのディオマンシの法令に屈するしかなかった。
反発すれば殺されるのは目に見えていた。
これは近代でいう独裁社会主義国家であった。
【しかし、ニジェはどこに消えてしまったんであろう、、】
ムルはもちろん、誰にも言えなかった。
【 あの、置いていった虹色石は、、何だったんであろう? 】
御触れを聞いてショックを受けたムルではあったが、一番の心配事はニジェのことであった。
この後、奴隷の様に扱われた民達により、この深い密林の地に新しい村が構築されていくのであった。




