静かなる内戦50~隣国マンディンカ物語第二章1
『ニジェがわしの家に最初に寄ったのは偶然では無かったようだな。』
ムルは月を見上げてそう言った。
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『見えますか? 眼下に見えますのがジョラの村であります。』
遣使のアクラは生い茂る木々の隙間から指を指してニジェに言った。
『ほーう。』
『この辺りはまだ数軒。』
『しかし、ニジェ様、本当に行かれるのですか? 私達数人では?』
ガーラがニジェに聞いた。
『大人が潜入したらすぐに捕らわれる。子供の俺なら迷い子のふりだ。』
『そんなにうまくいきますまい。ニジェ様はわれわれにとって新しき希望の王。命の危険があることは、お止め頂きたい。』
『ゆく。』
『しかし、自ら赴く必要は、、』
『いや、このジョラの先に新天地を求めるなら、ジョラを知っておく必要がある。新天地を見つけてもこの部族に怯えて暮らすのはごめんだ。』
『確かにジョラの王ディオマンシは危険だが、
今の我ら50余りの男では戦えまい、、、この先もきっと。』
アクラはそう言った。
『新しい王のやり方だ。内側から。』
ニジェはニコとして言った。
『あそこに見えますか? 小さな掘っ立て小屋。あそこにムルという霊媒師がおられます。
私もこの村に入る時は必ずそこに立ち寄っておりました。』
アクラが言った。
『住んでいるのか?家畜小屋かと、、』
『昔、カサの王が部族統率をはかる為、それぞれの村の砦として配置した霊媒師であります。』
『霊媒師か?!』
『ムルは良いお人です。必ずやニジェ様を向かい入れていただけるはず。いくらマンディンカ人でも迷子は放っておかないはずです。』
『ただ、マンディンカから私らより先に逃げ込んで見つかった者は、ここの王ディオマンシの手下3人に皆殺られているようでありますゆえ、くれぐれもお気をつけ下さいませ。』
『わかった。ではこの羽の冠は邪魔になる。預かっておいてくれガーラ。あとは、、』
ニジェは腰蓑にガサゴソと手をやった。
(ま、いいや。これは持ってゆこう。)
『失礼ながら、この先ニジェ様が生きておられるのかどうか、どうご連絡をとれば?』
『そうだなぁ。』
ニジェは少し考えた。
『では満月の夜半。火を焚く。そこが俺の居場所であり生きている証拠だ。』
『そうだな、ジョラの奥にはもう部族はおらん。何とかその狼煙が見える新たな地を探そう。』
アクラがガーラに言った。
『俺もなるべく村から東へ外れた場所で焚く。立ち昇る狼煙を見つけたら、ガーラそこに。』
『できるかどうか、、』
『やってみよう。ガーラ!』




