静かなる内戦46~マンサ
『いないよ。いない。』
『ん?どうした? なぜ? 』マンサはファルに聞いた。
『わからん。その部族にオレたちに向かって「矢を放て」と号令をかけたのがニジェだった。』
『意味がわからん。』
『オレたちにもわからん。』
『そいつらと仲間だったってこと?』
『わからん。全部わからん。』
『戻らない?』
『、、、』
『怖いね。』
『怖い。』
マンサはファルの背中からヒルを一匹もぎ取ると、叩きつける様に川に投げ捨てた。
『あッ、そうだ! 途中でムルの爺を見かけたよ。』
『忘れてた!』
『忘れてたぁ?』
『マンサ、先頭のハラに伝えてくれよ! 川の反対側だから見失うと通り過ぎちゃう!』
マンサは小走りで列の前に向かった。
『どうした?マンサ。』
『ムル!ムル爺! 忘れてない?!』
『ハハッ!忘れてないよ。だいたいの場所はわかるから、その辺りまで行ったら川の反対側に渡ろうと思っていたよ。』
『ファルのバカ、忘れておったよ。』
『そんなはずないよ。ファルを背負って川を渡っている時にその話もしたよ。』
『変なのぅ。』
『お前にヒルを取ってもらうのが恥ずかしいから前に行かせたんじゃないのか?』
ハラはハハと笑った。
『で、ムルは無事だったか?』
『寝てたよ。籠かぶって。』
『寝てたぁ? 流石ムル!この場に及んで!』ハハ!
『それから、ディオマンシの事はどうなったか何か知っているかい?』
『知らん。その前に走っちゃったから何も知らん。』
『フランス軍にディオマンシ、そして後ろから得体の知れない部族。どうすりゃいいんだ。』
『しかし、お前、ずっとここまで走り放しかい?』
『そうだよ。一刻も早くと思ってさッ』
『ここにいる男衆の誰より凄いな!皆、歩いただけで疲れ切ってる。何か食わせてあげたいが、逃げる時に籠を全部捨てて来てしまったんだよ。』
『大丈夫だよ。なんともない。空いたら川の魚でも捕まえるよ。』
『水の音立てると後ろから追っ手が弓を放ってくるぞ。』
『ゲえ‼』
『あ、ハラ。ほら、これだよ。何とかの実。』
『おー!まさしくモリンガ!きっと流しちまったヤツだ。よくぞ。』
ハラは背負籠をマンサの方に向けると、入れろと催促した。
『やだ。これはわたしの物。わたしが持って帰る。』
『チッ、まあいい。今回のお駄賃代わりだ。』




