静かなる内戦42~ファルとハラ
『ファル、おいファル!』
ハラは小声でファルを呼んだ。
目を開いた。大木の隙間の小さな空にいくつもの星が見えたが、それを遮る(さえぎる)様にハラの顔が目に映った。
『おっ、生きているか?ファル!』
ファルの身体はたくさんのヒルに覆われ、生い茂るシダの中に埋まっていた。
ハラは抱き起そうとしたが何かに引っ張られる様にその身体は動かなかった。
『これは!獣の罠!?』
『そう、罠にやられた。どうしても解けない。』
『強く締めつけている、、』
ハラは持っていた槍の剣先で、その縄をノコギリのように引いた。
『足に傷はつくが、辛抱しろ。今解く。急がねば!』
『ハラ、見つけてくれてありがとう。死を覚悟したよ。 皆は無事かい?』
『皆は無事だが、話は後だ!早く解かねば追手が来る!』
『大丈夫だよ、ハラ。静かに耳をすましてごらん。』
『ん?』
『何も聞こえないよ。追って来る足音のひとつもしない。』
ハラは槍を引く手を休めた。
『本当だ。』
『ね。』
『けど、とにかく急ごう!どこで奴らが待ち構えてるかわからん。』
ハラは引く手を早めた。
『よし!切れた!行くぞ!起き上がれ!』
『痛たたた。』
『無理か?』
ハラはそう言ってファルにまとわりついているヒルを振り払いながら足元を見た。
『おや?これは?モリンガ?』
ファルの足元には無数のモリンガの実が落ちていた。
『なぜ、こんなところに、、』
上を見上げるとそれは幾つものモリンガの木であった。
『なんだい?それは?』
『お前は知らないと思うが、これは万能薬。煎じれば病にも怪我にも効く。滅多に手に入らない代物だ。その足にもヒルの傷口にも効くぞ。』
するとハラは皆が捨てて行った背負籠のひとつを拾い、落ちている実を詰め込んだ。
その姿を見てファルは小さく笑った。
『ハラ、急ぐんじゃなかったのかい?』
『さあ、ファル。歩けぬのなら背負ってやる。』
『その籠はどうする?』
『来た時と同じ。勲章にして帰る。おんぶと抱っこだ。急ぐぞ!』




