静かなる内戦4
『もうよい、帰れ』
ファルはスクッと立ち上がり、宮殿の階段を降りて行った。
むろん誰も見送るわけはない。
日はとうに沈み、ほのかな橙色が西の空に残っているだけであった。
階段の下まで来るとファルはクルッと体を回し、その高床の下に潜りこんだ。
隙間だらけの床だが、この暗さでは上から床下の様子はうかがえない。
『お前ら。どう聞く。小僧の話』
『誠には信じがたいのではありますが、話が事細かい上・・・』カマラの言葉に
パプが『フラミンガの羽根』と被せた。
ディオマンシは、すかさず一笑に付した。
『フラミンガの民なぞおらん。 あれはな、カサの王がカザマンスの部族の統率を図る為にでっち上げた空想の神の民だ。絵空事。御伽噺だ。』
三人はこの言葉にしばらく黙ってしまった。
『日が落ちましたなあ。 ディオマンシ様、そろそろ火を入れましょう』
カマラが部屋の隅の壺から種火を取り出し、ランプに灯すとそれぞれの顔が赤く映し出された。
ディオマンシが口を開いた。
『お前ら 一度様子を窺いに行ってはもらえぬか。
パプとドンゴ、二人でよい。三人共に行かれては困る。それに、、探るなら少ない方がいい。』
『わかりました。』
『フランス軍もいつ攻めて来るやもしれん。この密林の奥にまだ人の住める地があるのなら。
我らはカザマンスで唯一生き延びた部族じゃ。容易くは滅びん』
『承知しておりますゆえ』
『それとな。一人。荷役を連れて行け。三日かかると言うしの』
『ならばニジェを』
『では、今夜のうちに出発しろ。三日三晩。さすればそこに夜に着くことになる。探るなら、闇の時がよいであろう。わかったな。早ければ早い方がよい。支度しろ。』
床下にいたファルは 宮殿をあとにした。
そして、ニジェの家へと小走りで向かった。