静かなる内戦39~隣国マンディンカ物語3『モリンガの種』
『これはな、誰も知らない事。この山々を越えて東に向かうのは至難の業。景色は緑一色。方角もわからなくなる。しかし道さえ分かれば草木をなぎ倒しても前に進む事ができる。』
アクラは話し出した。
『どういう事ですか? 道でもあるというのですか? 確かにアクラ様は何度も行き来してらっしゃいますが、、』
護衛官ガーラは訊ねた。
『先祖代々な、ずっとこの遣使を任されて来たんだ。いつの代かはわからん。グリオの唄にも出てきはしない。』
『全くわからん。』
『もしかしたら、この為だったのかもしれん。人から木へ、木から人へ。』
『えっなんです?』
『実はな、私達遣使がこうして各村々を行き来できたのは先祖のおかげなんだ。』
『よいか、この先を進むとモリンガの群生が延々と続く。と言ってもだ、もちろん他の草木も茂っている。ただよく見るとモリンガの生えているのは幅にして10メートル。しかしその群生の長さは、』
『まさか!』
『延々とジョラの村まで続いておる。野を越え山を越えな。』
ガーラはニコとした。
『そう、この辺りでは見られない外来のモリンガの種を代々撒いて来たんだ。
ただ植えたわけじゃない。モリンガは煎じて飲めば血の薬にもなる。この行程、怪我はつきもんだしな。わしらは薬箱の木と言っておったんだ。』
『それはありがたい。』
『道はわかるが、楽な道ではないぞ。フランス軍もこれを知らんでは到底ジョラにはたどり着けぬ。』
『ではここを抜ければ、当面はフランス軍も追いかけては来れないと?』
『そういう事だ。とにかくガーラ。お前が指揮をとって、今ここにいるマンディンカ、一人たりとも欠けることの無い様導いてくれ。』
『こちらこそ、アクラ様にお導きを。』
『それから、たぶんマンディンカの王の血を継ぐのは既にマタしかおらん。 手厚くお願いしたい。』
『わかっております!』
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『もう、カジュの酒は手に入れたも同然。次はジョラだ。』
ジルベール将軍は王の椅子に腰を掛け、バルの宝の部屋に笑いを響かせた。




