静かなる内戦38~隣国マンディンカ物語2
ハアハア、
『ここまで登ってくれば、少し休めるか、、』
マンディンカ宮殿の裏山の中腹に逃れてきたのは軍兵約50人、従女や村の女数十、子供も数人。
皆ずぶ濡れであった。
木々の隙間から村を見下ろすと、あちらこちらからモクモクと火の手が上がっていた。
逃げ惑う人の姿も見えた。壊滅的だった。
『どうなるんだろう?』
一人の兵士がポッとつぶやいた。
そこにはアクラという、バル王から他の部族の村々に使いを任されていた遣使がいた。
『おー、アクラ様もおいでになられていらっしゃいましたか、これは心強い。』
そう言ったのは宮殿の護衛官ガーラであった。
『色々聞いている。捕らわれた民はすぐに改宗させられる。どこの神ともわからぬものを、信じさせられる。そして行き着く先は奴隷の道だ。船でフランスに運ばれる者あり、この大地の開拓に使われる者ありだ。病に伏せようが、怪我をしようが骨の髄まで働かされ、あとは、、』
『あとは?』
『言わせるな。言わなくてもわかろう!』
皆は燃え尽きていく村の家々を静かに見ていた。
『ガーラ、さてこれからどうする?』
アクラは聞いた。
『マンディンカより西はフランス軍に制圧されております。東へ逃げ延びるしか方法は、、』
『確かにな。わたしは何度もバルの使者として行き来してるが、道は険しいぞ。しかもそこには厄介なディオマンシがいる。』
『しかし、それしか。』
『女衆もいるぞ。』
アクラは遠くジョラのいる東の空を望んだ。
と、
『おー、マタもいるではないかぁ‼ よくぞ生き延びてくれた‼』
そう言うとアクラは走り寄り、抱きついてマタの顔に頬ずりをした。
『よくぞっ、よくぞっ!』
アクラの目には涙が溜まっていた。
マタとは、さっきまでバル王の椅子の後ろで遊んでいた6番目の夫人の長男であり一人息子。
他の夫人にはそれぞれ大勢の子がいたがこのマタだけは一人っ子であった。
『母さんがいない。』
マタは独り言のようにアクラの目につぶやいた。
『、、、きっとどこかで生き延びておる。心配するな。』
『そんなわけない。』
誰も口を開く者はいなかった。
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『ジルベール閣下‼ この裏山に数十の軍と民が逃げ込んでいるようであります!』
『よいよい、たかが数十、もう下りては来られまい。無駄な労力を使うまでもない。放っておけ。
そのうち飢え死にするのが関の山だ。』
『ではこのバルの遺体は。』
『その辺に放っておけ!大雨だ、流れるであろう!』




