静かなる内戦37~隣国マンディンカ物語
これより二年前、ジョラの隣国マンディンカはフランス軍に包囲されていた。
ジョラの少人数部族と違い、3000人以上の民が暮らしていたこの地方最大の部族だ。
この国のバルという王は、人の二倍の高さはあろうかという土塀に取り囲まれた宮殿に住んでいた。 塀の外はその倍の高さのバオバブの木で覆われ、いわゆる二重の砦になっていた。
そしてその周りを30余人の軍兵が常に見張っていた。
門の中に入ると宮殿に繋がる石で敷いた幅2メートルの道、その両側は乾燥土の庭になっている。
28人の妻を持つこの王の子らは、この庭を遊び場としていた。
宮殿の中はいくつかの部屋に分かれていて、側近や従女30人ほどが働いていた。
王の部屋はホールのごとく広く、至る所に趣向品が置かれ、贅沢品が鈴なりに垂れ下がっていた。
その宮殿の土塀が一撃で吹っ飛んだ。
5年に一度あるかないかの大雨の降り注ぐ日。フランス軍による、大砲の一撃であった。
崩れた塀の間からフランス軍兵がなだれ込むように侵入してきた。
兵が進む両脇には、王の子らが崩れた塀の下敷きになり唸り声をあげていた。
周りにいたマンディンカ軍兵も、一溜まりもない大砲に驚きその職務を放棄し逃げだした。
フランス軍数十名は宮殿に駆け登り、王を捜した。
『 王はどこだあぁ‼ 出てこい‼ バルはどこにいる!! 』
宮殿の中は突然の出来事に、大きな悲鳴とともに大パニックに陥った。
『お前は逃げろ!』
バルは掛けていた椅子の横で、一人寝転がって小石で遊んでいた息子に叫んだ。
第6夫人の長男だ。
その息子は慌てて裏口から飛び出した。
同時にフランス兵がドカドカと足音を立て、王のいる部屋に踏み入った。
『バルだな? 民は奴隷として連れて行く。お前は、、』
パッパーぁン‼
『 死んでもらう‼ 』
声とともに銃声がバルの眉間をぶち抜いた。
ガクッ
ガタン!
バルは首をもたげたまま、椅子から崩れ落ちた。
その様子を裏口から見ていたバルの側近達は、慌てて息子を追いかけ、共に裏山に逃げ込んだ。
そして逃れた軍兵も同じように宮殿の裏山を駆け上った。
『よいか!この部屋の品々、一つ残らずぶんどれ‼ 』
その声をあげたのはあのジルベール将軍であった。




