静かなる内戦36~罠
シダや木々が生い茂るそこここには、ジョラの背負籠が転がっている。
皆それぞれに重い荷物を捨て去り、密林を駆け抜けているのだ。
ファルは木々の根元を踏切板にして右へ左へと飛ぶように最後尾を走った。
体にはファルの進む方向と平行に、無数の傷も走った。
『わあぁあぁ‼』
ファルの足に急ブレーキがかかった。
体が少し浮いた。
バッタァアアァ~!
そして頭からシダの草むらに、突っ込んだ。
『痛ッ‼』
【あー、なにか食い込んだ!!】
足元を見ると獣を捕らえる「くくり罠」が、右の足首をギュウと締めつけていた。
ファルの、獣と変わらぬスピードの負荷にその縄は一瞬でつま先まで青くした。
【動けない、まずい!】
縄を解こうとしてもびくともしない。
『だめだあぁぁぁああああ‼ だめだぁぁぁ~!』
【 奴らが来る。間違いなく殺される。万事休すか、覚悟か、、‼ 】
何度解こうとしても指先が縄と足の隙間に入らない。
『だめだ、、』
ファルはあきらめて少し冷静になった。
すると周りの静寂さに気がついた。
後ろも振り返らずに音も消し去って走って来たからか、、そういえば、追っ手の足音が全くしない。
静かだ。
草を掻き分ける足音、空気を裂く音。弓を射る音。なにもだ。
穏やか過ぎる。
奴らは追って来てなかったのか? 弓を引く音は聞こえたが、放った音は聞いていない、、、】
『ううぅ、、』
チクチクと痛みが走った。
気づくと身体中にヒルが食らいついていた。
ファルはそれを、一匹一匹むしりとった。
しかし、それすらあきらめたファルは体を仰向けにし、上を見上げた。
暗い木々の小さな隙間から橙色の空が見えた。
【雨は止んでいたのか、、日も暮れてゆくな】
ファルは自分のせいで皆にこんな思いをさせてしまったことを後悔した。
そしてニジェにひざまづいたあの部族がここで生活している事が、この罠でわかった。




