精霊の森10~赤い花・虹色の石【物語・完】
探検家達3人は、一通り調べ終わると、そこを後にした。
バブエ教授は、軍用の強い生地で作られたリュックにその【G】のブロックを一つ押し込んだ。
彼らはカザマンス川に止めてあったモーターボートに、今度は瓦礫の外側を通って向かった。
真昼の日が照りつける瓦礫の山がしばらく続くと、乾燥地帯には見受けられない林。
バブエが気づいた。
「なんだ?あれは?」
「えっ!なぜこんな所に?」
それは、緑の木々に丸く囲まれた花畑。その色は光と共に3人の眼の奥で跳ね返った。
真っ赤に染まる壮大なチューリップ畑であった。
オランダの地で風に乗り、いつの間にか兵隊たちの軍服のポケットに入っていた種。
一時は糞尿にまみれた落とし穴。腐敗したオランダ兵の肉体とそれが大きな肥やしをもたらした。
その穴の底、幾年月を重ねヒタヒタと垂れ込むカザマンスの水流。
それがここで実を結び、正円の赤い園を生み出した。
取り囲む木々の緑と、斜めに射しこむ数本の日柱がその色を映やした。
赤い花びらはサハラからの風にゆらゆらと揺れながら、100年もの間毎年、栄華の花を咲かせ続けていた。
「まるで、伝説の赤い泉。」
探検家3人はしばしそのオアシスに眺めいった。
「敵はオランダ軍だったのか、、、」
植物学者のバブエはその一本を抜き取ると、その花に名をつけた。
「アフリカ産チューリップ。名はマム・ジャーラ。」
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マンサ達がベリーの成る丘の上に居住して、半年後の事だった。
バサバサと風を揺らして舞い降りて来た大きな鳥がいた。
そこに建てた、ファルとムルの遺骨の無い墓。人の背丈ほどの立石。
川沿いにしか現れないはずのカンムリクマタカ。その石の上に止まった。
コロン
そこで卵を産み落とした。
転がった卵は割れずに墓の下の草むらに収まった。
産み終えたカンムリクマタカは、バサバサと巨大な羽を揺らし始めると
勢いをつけていたのか、そのまま青の天高く飛び立った。
墓の真上で3度輪を描き、東の空に戻って行った。
「マンサぁ。これ。卵じゃない。」
アフィがその産み落としたばかりの、汚れた卵を素手で拭いた。
「虹色石だ!」
「ファルだ!あれはファル王だ!」
遠く羽の音がその優しい風に乗って来た。
バサッバサッ
『ファル~!ファルぅ~!』
二人は弧を描くように、いつまでもその羽に手を振り続けた。
『おーい! ファルぅ~!』
落ちた涙が、虹色石を光らせた。
【完】
※次回エンドロールで「カザマンス・西アフリカ部族闘争物語」完結です。涙。
※チューリップについて。
チューリップのおしべとめしべには成熟に時差があります。時差があるのは自家受粉を防ぐ為のもの。
他の花との受粉で強い次世代を残したいのです。
この受粉。日本の季節では花粉が運ばれていく時期に昆虫が活動しておらず、湿気と乾季のの違いもあり球根栽培が主となっています。種を扱うのは品種改良の時のみ。
チューリップはオランダを中心としたヨーロッパのイメージが強いですが、原産としての自生は中東のアフガニスタンやカザフスタンであります。