精霊の森 9~神の砦
100人も残らなかったカザマンスの国。
やがて衰退の一途を辿った。人々は10人単位で少しずつこの地を離れていった。
密林の奥地。人知れずカザマンス王国は消え去った。
ギザとその取り巻きの行方は誰知る事なく。
ここにカザマンス王国は滅亡した。
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この後100年。
今から50年ほど前。一人の探検家がこの地を訪れた。
サハラやマリからの乾いた風。変動した気候。ここは以前の密林とは一線を画す乾燥地帯と変わっていた。水路はその砂に埋もれ、わずかなカザマンス川の流れがその地中を通り、掘られた赤土の落とし穴にヒタヒタと滲みこむだけであった。
そこで見つけた赤土の瓦礫。
彼はそのブロックのそこかしこに彫られた【G】の文字。
マンディンカからこの地を攻略したフランス軍将軍ジルベールの頭文字と断定した。つまりこの城壁はフランス軍の物だと。
その翌年の事である。
探検家は再度の調査に、この地方に詳しい歴史学者と植物学者を伴ってここに赴いた。
「これだ。これなんだが。」
「ほほう。確かに【G】と書いてある。手彫りだ。」
歴史学に詳しい教授は感慨深く手に取った。
「しかしな、私が曾祖父から聞いたのはここにフランスは攻めて来てはいないという事だったが。」
この地の植物学者が切り出した。
「バブエ先生。それは誠ですか?」
「私の曽祖父は現にここに足を踏み入れてるらしいのだ。私と同じ植物研究の為だと聞いた。」
「では、この砦は? なんの為に?」
「それはもう言い伝えの中での話。それ以上の事は私もわからん。」
「しかし、このブロックの数といったら、かなりの物だ。風化しておるのにまだこんなに残っている。」
ポトン
詰まれた瓦礫の横に生えていた一本の大木。
そこから一つ、白く丸い実が落ちた。
「あっ!!」
3人は揃って声を上げた。
「これだ!!」
「文字ではない!!絵だ!!」
「バブエ先生これは?!」
「これはカジュの実だ!この地方には古くから生えている木。この木は樹齢200年は越えている。」
3人はその葉の木漏れ日を両手で遮り、白い実がたわわと成っている枝々を見上げた。
「では、これは?」
「この地を住処としていたジョラ族の物に間違いない。カジュは神に匹敵する物と聞いておる。この部族の者達が一つずつ堀り、積み上げた物だ。」
「つまり攻め入ったフランスから守るための城壁?!」
「神の砦というわけか。」
城壁を取り囲んでいたカジュの木同様、赤土のブロックにも沢山のカジュの実が成っていた。
※「カザマンス」冒頭は、
この探検家の件りから始まります。