精霊の森 8~マンサ・コンコ
悲痛な叫びを上げたのは、もう80を過ぎたムルであった。
ジョラの霊媒師は、ファル時代の役職は到に外され、カザマンス王国の入り口、あの博物館のような高床の家で他部族からの客人をひっそりと待つ日々であった。
来たのはハラとドルンと千里眼。
「ムル殿。昨夜、ニジェ、サバ、ガーラ殿達マンディンカの者がこの国を出奔致しました。その数100は越えるものと思われます。」
「は? 皆ギザを助けていた者達ではないか!」
「助けていたとはいえ、最近では皆、煙たがられ追いやられていた者達。」
「本当の意味で支えていたニジェ達がいなくなったのでは、、」
「ギザ王のやりたい放題。思う壺であります。」
「しかもであります。見かねたバブエ殿やブラルにバズ、カロとダラ、それにアラン達フランス兵も今夜の内にはここを出ると言い出しまして、、」
「どこへだ?」
「皆、ダカールやパルマランに向かうと言っております。」
「そうか、、やはり、、、ちょっとこれを見てくれ。」
ムルは杖の頭についていた象牙の玉を取り出した。
「ファル王が亡くなってから、ずっと黒いままなのじゃ。」
「えっ!?」
「あの時、ニジェを説得しておればこんな事にならずに済んだのかと思うと。鳥王の言うことを聞いておけばと、、」
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「なあ、アフィ。ギザ王様と離れるのは嫌かい?」
「えっ。なぜ?」
「私達はここを出ようかと思ってるんだよ。」
「わかってるよ。マンサ。もうニジェ殿もサバ殿もいない。自分達で身を守らなければならなくなったって事でしょう?」
マンサは28、アフィは23となっていた。
「ギザは黒い悪魔に変わったんだ。離れるというより、逃げ出したい。それに、、」
「それに? なんだい?アフィ。」
「私にはセヴランがいる。」
「ん?セヴランて、あのフランス兵の一番若い奴?」
「そう。」
「そういうことか。ハハハッ! しかしなフランス兵は今夜の内にはここを出るぞ?」
「知ってる。けどね、セヴランは私について来てくれるって。へへへッ。」
「もうとりつけてあったんだ。しかしまだ、行く宛てはないぞ。ひたすら南に向かうつもりだが。」
「どこでもついてゆくって。」
「こっちが赤くなるわ、、で、コリ様やサニヤ様、皆一緒だ。ジョラの者50人くらいは行動を共にする。」
「いいよ。出ましょう。マンサとセヴランが行くならどこまでも。」
王ギザの傲慢と過信はこの国の崩壊へと突き進ませた。
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マンサ達が辿り着いたのはカザマンス川を南西に下った丘の上だった。
「マンサ。ここの木見て。ベリーの実が成ってる。」
「おや、今? ここは丘の上、カザマンスより少し涼しいのだろう。」
「凄いな。これだけ成ってれば当分食べ物には困らぬ。」
コリがそう言うと、セグが木に登ってその実を捥いだ。
「とっても甘くて美味しいわ。」
「ねえ、ここいいんじゃない? 水害の心配なさそうだし皆が好きなベリーもたわわに成ってる。」
「暑さも幾分涼しいようだし、この人数なら少し切り開けば充分住める。」
マンサはここに小さな集落を造った。
『マンサ・コンコ』
意味は王の丘。
少し遅れてこの地に辿り着いたハラがマンサに言った。
「ムル殿が亡くなられました。」
ドルンと千里眼も一緒であった。
マンサ・コンコ。
この地は、数は少ないながらも平和な繁栄の村としてその後も生き続けるのである。
※「マンサ・コンコ」
実在するガンビア国の町。
人口300人足らずの丘の上の集落。
自著短編「マンサとアフィ」にも、2021年1月11日投稿掲載。




