精霊の森 5~断ち切った天のお告げ
薄汚れた裸の少年ファル。
身体中にフラミンガの羽をつけ宮殿の床に敷かれたカジュの葉に座った。
裸の足は泥まみれであった。
このディオマンシに謁見を申し出てたのは、カンムリクマタカに肉体を刻まれるわずか数か月前の出来事。
カジュの蕾が芽吹き、花になり、たわわになった白い実が全てその赤土に沈む。
たったその間の一季節のこと。
ディオマンシの側近の手下。パプやドンゴを射ち、青く透き通る沼では民と共にカマラを射た。
戻ったファルはすぐさまフランス軍と対峙し、偽りの疫病で追い返した。
ポロロカの波に乗り、ニジェ率いるフラミンガの部族紛争も制圧した。
乗り込んでいったマンディンカでは、アコカンテラがカザマンスの味方をしたのか、彼らの手を汚さずフランス軍とオランダ軍に向かって流れ出した。
そしてこの地でのオランダ軍との戦い。
ファルは民の誰一人とも命を落とす事無く、その役目を終えた。
ただ一人。
命を捧げたのは、その王ファル自身。
わずか15の歳であった。
肩口の掘れた傷からの破傷の炎症だけではない。
肉体以上の心労が、王を死に追い詰めた事は言うまでもない。
葬台の上は瞬く間に、その厚みを失くした。
すべての魂は空と密林に消えた。
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「わかった。ではギザで。」
「民の皆に問うてみます。」
コロコロ、コロン!
石山の葬台から何やら落ちて来た。
光る石。
ニジェがそれを拾うと、ムルの象牙の杖の玉であった。
「落ちて来てしまったのか、、どれ貸してみろ。」
ムルはその玉をニジェから受け取ると、手をあげて三日月に晒した。
「ん~、、夜の闇しか映らんわい。」
「月の火は?」
「なぜだろう? ファルの死を悲しんでおるのか、白い玉が夜を吸い込んで黒くなっておる。」
「ムル殿。その杖の玉は、この先を暗示する為のものでは?」
「いやそれ以上に悲しいのであろう。」
ムルは玉を見て悩んだ。
ギザ。たかが5歳の子。身を案じてこの国の先を暗示はしないだろうと。
ニジェに言ってもそれは迷信だと一笑に付されるだけだ。
それよりも、ファルの胸から落ちて来た悲しみがこの玉を黒くしたのだろうと、占い思いこませた。
「虹色石は落ちてきませんね。」
「来ぬだろう。あれはお前とファル王の繋ぎの証し。ファルの事だ、きっと天に持って行くであろう。」
「そうであればいいですが。」
「あの石を鳥王カンムリクマタカが吞み込めば、孔雀となり東洋の鳥の王として君臨しその役目を果たすのじゃ。」
「この地の空の王がカンムリクマタカ。東の天の王が孔雀。」
「お前とファルの関係だ。」
「虹色石の関係はそうですが、ここからはギザ。石はファル王の胸から天にのみ。」
虹色石。象牙の玉。カンムリクマタカと孔雀。
全てはこの先をカザマンスの民に示唆していた。
ファル王の「次はニジェ」
象牙の玉の黒。
落ちて来た虹色石。
しかしその繋がりを断ち切るようにギザの王は誕生した。
天のお告げに逆らってはならなかったのだ。