精霊の森 4~月夜の鳥王・王の選択
カンムリクマタカ。
マム・ジャーラを密林の獣王と呼ぶなら、それは空の支配者。
いつもであれば巣に帰りコクコクと闇に落ちて行く支配者であったが、現れたのは月夜の深み。
三日月に長い翼の影をつくった。
ぐるぐると旋回する広げた大きな羽。狙っているのはファルの御体。
「なあ、ムル殿。私は明日の朝に鳥王はやって来ると思ったんだが、、」
「確かにいつもなら羽を休め、高い木の上で眠りに耽っておる時間だが。」
「腹も空いてはいないだろうに、わざわざ。」
ニジェは聞いた。
カザマンスの畔の影は、既に二つだけになっていた。
「わしは分かるよ。」
「何がですか?」
「ファル王の尊厳を守る為じゃ。」
「尊厳?」
「奴がその嘴で、啄めば王の身体は惨たらしく引き裂かれる。民の真昼の目にそれを晒したくなかったのであろう。」
「なるほど。」
後に分かった事だが、鳥王カンムリクマタカはオランダ兵の誰一人として手をつけていなかった。
香水の匂いを嫌ったとも思われたが、これまで彼らがやってきた事、
アフリカ部族への奴隷と殺戮。密林破壊。オランダ兵を天に帰すなぞ、もっての外と思ったからであろうと、ムルは考えた。
ファルの葬台の身体は、赤紫の莚と共に一切れずつ天に帰された。
鳥王カンムリクマタカはそれを嘴に挟むと天高く昇り
クイと喉奥に仕舞いこむと、また急降下で葬台に降りて来た。
莚についた白い花もその後を追って、ユラユラと落ちて来た。
花びらは月明かりに照らされピンクに光った。
ファルは鳥王の手によって、カザマンスの夜空に帰っていった。
ピンクの三日月は、うっすらと川面を照らした。
葦の葉がザワワと揺れた。
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「なあ、ニジェ。これからどう致す? 王の不在は神が怒り出す。」
「はい。承知しておりますが、、」
「確かお前は、ファル王に言われておったな。王にもしもの事があったら、ニジェに任すと。」
「あ、はい。しかしながら私なんぞにその役目は、とてもではありませんが出来ません。ディオマンシは下の下の論外ですが、幸いにも今ここにはサバの王子もおられます。マンサ殿もおられます。」
「ファルは、お前に。と言ったぞ。」
「昔から王は部族の指揮を取る方が珍しいと。ファル王は異端な王でしたが、その役目はその下の者が行う。言わば王は象徴でありカリスマ。人々の心を引きつけるのが王と。男女も、年も関係なく。」
「そんな奴がおるか? サバか? マンサか?」
「いえ。ギザでございます。」
「は?ギザだとぅ? まだ赤子のようなもんではないか?」
「ですから、年は関係ないと。」
「ギザ、、ギザか、、」
※文中のファルはニジェを後継者に。
「カザマンス・THIRD」
マンディンカ闘争9~ニジェの役目
に記載されております。