精霊の森 3~石山の鳥葬
グリオの葬列が森にその音を響かせた。
偉大な片腕の少年。ファル王の葬儀であった。
カザマンスの森は、押し黙った民の森。
グリオの楽器の音だけが森林を風と抜けた。
ンバイとマリマは後列で抱き合いながら歩を進めた。
マンサは前を向き最前列をグリオ達と歩いた。
向かったのは宮殿の奥、カザマンス川の畔。
そこにひとつひとつ石を積み上げた。
ハラやドルン、ニジェがこしらえた石の山。人の背丈の二倍の高さ。
その頂上は人が一人横たわれるほどの平らな葬台。
ファルはここまで運ばれた。
赤紫の莚の間から、時折花がポロリと落ちた。
ファルの御体は横にされ、ハラ、ドルン、
背の高いニジェとサバが後方を担いだ。
崩れそうな石段を、一歩ずつゆっくりと。
赤紫の莚のまま葬台に寝かされたファル。
ムルが石山の下で、文殊を唱えた。
それは死者の魂を抜く為。無事に森に帰す祈りだ。
死者は鳥になる。
その肉体は鳥葬という手段によって行われる。
生きるために、他の生命を奪って来た人間でも、死してその肉体を他の生命に与える。
与えた事により罪は流され、肉体は天にゆく。
奪いに来るのは鳥の王カンムリクマタカ。
翼を開けば、2メートルにも及ぶ怪鳥だ。
畔にはムルの祈りの低い声と川の流音。
時折崩れる石山のコロコロという音。
カロとアゾは持っていたフライパンを、ファルの頭と足の辺りに立てた。それぞれにパーニュの布切れを結ぶとそれを旗印とした。
それは鳥王への目印となる。
天への捧げ物。
しかし、いつもは抜け目ないカンムリクマタカ。
この日は一向にファルの迎えに来なかった。
夕の日が沈みかけた。
その光は、空に浮かぶ鱗雲を濃いピンクに染めた。
東にポッカリ出た淡い月はその色に滲んだ。
「どうしたんだろう?」
ニジェが言った。
「タカが来ない。ファルが名残り惜しんでいるようではないか、、」
「時機に来るであろう。きっと満腹なんじゃ。」
ムルが言った。
「満腹?満腹とは?」
「多分だが、ほれ。瓦礫の下敷き、落とし穴のオランダ兵。沢山の食い物がある。」
「そうか、、」
「きっとファルは最後だ。」
「なぜ?」
「奴らの方が奪って来た命が多いからだ。まず奴らからそれを奪い返さんとならん。」
「ファル王様からは奪えないという事か、、」
「大丈夫だ。そのうちタカは来る。ちゃんと密林に帰してくれる。天に帰してくれる。」
「では、私は見届けます。ファルがこの森に帰って行くところを。」
ここに、ンバイとマリマ、マンサはいなかった。
鳥葬という儀式。家族は参列が禁止されているからだ。
その惨たらしい様は、血筋の目には焼き付けてはならぬからだ。
※びっくりしました!
今夜、本当に満月のピンクムーンなんですね!(日本では)
あー驚いた!