精霊の森2~愛しのファル
赤紫に染め上がった光沢の莚。
ニジェは蹴散らかした白い花、落ちた紫の花びら。
一つずつ一つずつ丁寧に拾い集めた。
一輪ずつ一輪ずつそっとファルの体の上に置いていった。
マンサは身じろぎ一つ出来なかった。
信じられない衝撃はまるで雷に打たれ、硬直してしまったかのようであった。
そのまま膝から崩れ落ちた。
いつの間にか父ンバイの姿は消えていた。
はち切れぬばかりの胸の鼓動を抑えきれぬンバイは、一人西の林に紛れるとその切り株に手を置いた。
「ファル~ぅ!! ファル~ぅ!」
父の嗚咽の叫びは森中に木霊し、遠く響き渡った。
母マリマだけは、最後まで愛おしむ我が子の顔を撫で、頬ずりをしていた。
「ファルや。よく頑張ったね。もう良いよ。ゆっくりお眠りなさい。私の子ファル。」
ーーーーーー
「ファルや~!ファル!支度は出来ているかい!? 早く起き!」
「ああ、今着替えるよ!」
「よいか、敵はきっと攻めて来る。弓矢の鍛錬は一日たりとも欠かすな。グリオといえど戦わねばならぬ時が来る。自分の身は自分でな。」
「それより先にバラフォンの練習だよ。!」
バラフォンの音色と共にンバイとマリマの歌声と笑い声が、遠い記憶と共にファルの鼓膜を揺り動かしていただろうか、、
ーーーーーー
役目を終えたかのような鳥や猿たちはしばらく泣いていたのか、小枝に身を潜めた。
子猿のパスタが「ヒューイ!」と口笛の様な声を上げると、それが合図だったかのように森の奥へと真昼の狩りに消えて行った。
ファルはその莚に、白いモリンガの花とレンズ豆の紫の花と共に包回れた。
ニジェはその中に、二人の証し。虹色石を置いた。
その石を知っていた、マンディンカの王子サバ。
そこで初めて彼が弟マタだと気づいた。
しかし、サバはその光景にうんうんと頷くだけであった。
「ファルはこの森で生きておる。森の使者となって我々をお守りくださるであろう。」
ムルがそう言うと、民でも聞き取れぬ経のような呪文を唱えだした。
その地響きのようなムルの声の音色が、マンサの身体をブルブルと震わせた。
マンサは両手を広げ、ファルの体に莚ごと抱きつくと、吐き出すように泣き出した。
「ファル!ファル!ファル!あ~!愛しのファル!森に帰らないで!お願いだから私のもとに!わたしの胸に!帰ってきてちょうだい! また一緒に畑仕事をいたしましょう!水汲みをいたしましょう! カジュの酒をたくさん造りましょう!」
ムルの呪文が泣き声に変わった。