静かなる内戦33~矢
密林が取り囲み、風さえ吹き抜けぬその沼に一本の矢が飛んだ。
聞こえて来るのは、倒れている民たちの呻き声だけだ。
シュルㇽゥル~!
その矢は、空を切りうろたえたカマラの左の背中を一直線に貫いた。
う”ボッ
『うッ』
カマラは声ではない鳴き声をあげると、水際の水に顔から崩れ落ちた。
ピシャッ~‼
水しぶきを上げたカマラの背中に、天を突き上げる様に一本の矢が立った。
倒れていた若衆、座り込んでいた若衆、皆呻きを止めカマラを凝視した。
呼吸すら忘れるほどの一瞬の静寂だった。
その時、ハラが声を揚げた!
『やったぞ!ファル!でかした!』
若衆たちは皆一斉に立ち上がり、次々と歓声を揚げた。
『お見事!お見事!』
『外さないかとヒヤヒヤしたぞ!』
『やった!やった!カマラを打った‼』
『皆、芝居がうまいのう!』
ファルはしばらく右ひじを上げたまま、矢を射った格好で立ちすくんでいた。
そしてゆっくりと水際に向かうと、
うつ伏せに倒れているカマラを上から覗き込んだ。
【オレが一番ヒヤヒヤした。手が震えた。】
そう思いながら、右ひじをこすった。
湧き水の水面は、赤い小魚の群れでもいるかのように血が泳いでいった。
【残るはディオマンシ一人だ。】
若衆たちはカマラを取り囲み、その背中の矢を見つめた。
もう誰も口は開かなかった。
またしばらく静寂が林を包んだ。
ゴソッガサッ、、
風のないはずの沼の木々が少し揺れた。
『ん?木の葉ではない。草の揺れる音だ、、』
ファル達はカマラから目を離し、沼の周りに目をやった。
すると、突然木々の間を掻き分けるように、全裸同然の男が一人、また一人と沼の反対側から現れた。
そして、また一人、また一人と次々と薄暗い木々の間から弓矢や槍を手にした男たちが現れた。
【まさか、本当にいたのか、フラミンガ、、】
そのとき、まだ芝居を続け仰向けになっていたニジェがゆっくりと立ち上がった。
その顔には小さな笑みが浮かんでいた。




