殺戮と滅亡 96~王はゆく! 片腕の王・片目のニジェ
『千里眼。悪いがここでこうしてはおれんのだ。』
気を取り戻したファル。
「いえ、サバ様が兵を連れてオランダ軍を追って行きましたので、今は動かれずにここでお休みください。」
朦朧とした意識の中、ファルは立ち上がると小窓から通りを見た。
そこには至る所オランダ兵が倒れ、芋虫の如くウゴウゴと這いつくばっていた。
『まだおるだろう?敵は?』
片腕の無いファルは弓を口で引いたが、立っているオランダ兵は一人もいなかった。
「いえ、ですからもうここには。皆残りのオランダ兵を追っかけて西へ。」
それを聞いたファルは小窓の枠に右手を掛けると、ヒョイとそこから飛び降りた。
うつ伏せのオランダ兵の背中であった。
慌てたダラと千里眼は追うように飛び降りた。
うぎゅ~ぅ
三人の下敷きになったオランダ兵は留目を刺された。
パタパタパタ ヒョイヒョイヒョイ
そのオランダ兵達の屍。
腹や背中を飛び越え、跨ぎ走って来る者があった。
弓矢を背中に右に左。少し焦点の定まらぬ走り、時々転びそうに前かがり。
「あ!あれは! ニジェ!ニジェ殿!!」
千里眼が叫んだ。
ニジェの見えない左目はファル達を死角にしていたのか、その場をそのまま通り過ぎようとしていた。
『ニジェ~!! ニジェ~!!』
今度はファルが叫んだ!
その声にニジェは急ブレーキで足を止めると、首を回して振り向いた。
「あ~!!ファル様!!」
ニジェはファルに飛びつこうとしたが、抱きついたのは千里眼。
片目の見えぬニジェは目測を誤った。
「?ん?ニジェ様。抱きつくならファル様。私なんぞに、、」
千里眼は嬉しくも困惑した。
「あっ、間違えた。ハハッ。ご無事でしたか! ファル様!ようやくお会い出来ました!!」
ニジェがファルの顔を片目で見つめた。
『ん、ん。どうしたニジェ。その目は?』
ファルが尋ねた。
「ああ、これはワニの神にくれてやった。気にしなくていいですよ。」
ファルは大丈夫かと言わんばかりに、右腕だけでニジェの背中を抱いた。
「あれ? ファル様!左手は? あれ?ない? あっ、あっあれ?」
『お前と同じだ。オレもだ。マム・ジャーラ。赤い泉の神に差し上げた。目を突いてしまった引き換え。』
「私が葦のワニに入れたのは虹色石。片目のワニでありました。」
『ほう。』
「ファル様に奪われた目。私から奪い返したようですね。」
『それは、、かたじけない。すまぬ。』
「いえ、大変嬉しいです! 私とファル様がマム・ジャーラを通して繋がっていたという事でありますから。」
『マム・ジャーラの目は元の二つに戻った、、』
「はい、ですから。」
ニジェは腰蓑から虹色石を取り出した。
「これをお戻し頂きました。」
ファルはニコと笑った。
『では、行くぞ!! オランダを追う!』
「はっ!!!」
「ちょっとお待ちください!お二方とも!」
千里眼は二人の前に両手を広げて立ち塞がり、その歩みを制止した。
「ファル様はその腕。ニジェ殿はその目。戦いの場に立つ事は無理でございます。それにファル様に至っては高熱。」
「えっ、高熱? 確かにファル様の身体は今、、熱かった。」
ニジェはサッとファルの足元に膝まづいた。
「お止めください。私などの命は落としても構いませんが、王であるあなた様はそういうわけにはいきません。ここは私達に任せ。ここで留めください。」
『何を言っている。王であるからゆくのだ! 王と言うのは民の為に骨身を削る。命を惜しまぬのが王の役目だ!』
王の顔を見上げたニジェは、流石と笑った。