殺戮と滅亡 95~問いただすサバ・慌てるマンサ
「話は決まりましたか? どうされます?」
マンサは花の匂いを嗅ぎながら通じぬ言葉を吐いた。
朝露は到に乾き切り、真昼の太陽が木々の間から斜めに日柱を注いだ。
頭上の葉はその光を受け、オランダ兵のヘルメットをキラキラと揺り動かした。
「往生際が悪いようですね。ヴィンセント殿。」
ハーンは、もう諦めろと言わんばかりに、ヴィンセントを睨み返した。
「どうみても、もう無理でありましょう?この我が軍の出で立ち。ボロボロではありませんか? それに、みて下さい。その女子。座り込んで花の匂いを嗅いでますよ。」
「フン!何を言っておる。俺達はカジュという木を探しに来ただけ。何も手出しするつもりは無かったのだ。それを小奴らがだな、、」
「探しに来ただけ~?」
またしても木の上から声がした。訛ったオランダ語。
ヴィンセントとハーンは頭上を見上げた。
「なんだ。またここの猿どもか、、」
サバであった。
サバはマンディンカの奴隷化を模索していたフランスやオランダとの平和的解決の為、幼い頃からアクアのもとで、その二か国の言葉を学んだ。
それは父バル王の跡取り、次代の王としての必須だった。
ブラルとバズ同様、サバが木の上を伝って来たのにも訳がある。
ズラズラと並ぶオランダ兵、まだ優に300はいる。その前線まで来るには敵にやられる。
三人は雲梯をするテナガザルのようにここまで来たのだ。
「霊媒師の家に勝手に上がり込んだだろ? 床にな、お前らの靴跡がうじゃうじゃ付いていた。しかもまだ宵の内。」
「お前は誰だ!それがどうした!」
「もう誰でもいいだろう!カジュを探しに来ただけなら、そんな事するなよ。丁寧にして頂ければあの家で客人として振る舞ったであろうに。」
「客人?」
ヴィンセントは木の上の猿の言っている意味がわからず首を傾けた。
「ほら、なぜわからんのだ? もうそれがおかしいのだ!」
「なにがだ?」
「あのな。人間同士ならキチンとご挨拶をしてだな、「この度はカジュという木を探しに参りました。どうか分けて下さらんか?」そう言えばいいではないか! 俺が言ってるのはそこ!そこなんだよ!」
「、、、?」
「こんなにも多くの兵隊を引き連れて、銃や銃剣を手にし、土足で人の家に入る。誰がどう見ても敵としか思えぬのだ。ただカジュを採りに来ただの誰が信じると思うか!!」
「なあ、あれは誰だい?」
マンサは背負籠の中からもう一本花を取り出すと座ったまま呟いた。
「マンサ様。あれがマンディンカの王子であったサバ様です。ファル王様の兄上様でありますよ。」
バブエが言った。
マンサは慌てて手にしていた白い花を籠に戻すと、直立不動で立ち上がった。
(マズい。見られたかな、、こんな時に胡坐かいてる女、、)
オランダ兵に向かって弓を引く格好を、、、してみた。