殺戮と滅亡 89~ディオマンシの檻の前
「あれ?お前ら。」
逃げて来たオランダ兵は、素っ頓狂に口を開け、銃を下げた。
「ハーン!生きていたのか?」
「生きてて悪かったな。お前らは私を見捨てたが、この地の部族達は敵である私を見捨てず、手当まで施し、その上オランダに帰そうとまでしてくれた。軍や国の問題ではない! ひと、人間として扱ってくれた。ヴィンセントにそんな心はあるまい。」
「うむむ、、」
「私にとっての敵は今やお前らだ!ヴィンセントだ!」
「、、、」
「ところでその慌てぶり。ここにおる事。やられたのであろう? カザマンスの勇者達に。」
「、、、」
「素直に負けを認めて戻った方が良さそうだぞ。」
「いや、これ如き。」
「お前らの敵は、まだ二軍、三軍と700以上の兵を連れ、あの小高い山を下っておるそうだ。その中に王がいる。私を助けてくれたこの国の若き王だ。逃げようとも既に手遅れ。」
「我が軍は列強の中の最強国オランダ軍であるぞ!やすやすと負けはせぬ!」
「そうだ!そうだ!引き下がっても、また立て直して必ず壊滅させる!」
「無理だ!この者達を甘く見るんじゃないぞ! 小奴らはこの地。このジャングル。獣!花!風!空!川! 全てを味方につける事が出来るのだ!それはこの地を知らぬ人間には敵わぬ敵だ!」
ハーンの隣にいた整備兵が続けた。
「どうする? 近くの入り江にボートが着けてある。このまま手を上げるか? まだ戦いを続けるか?」
その意味の分からぬオランダ語。
会話の間、ブラルとバズはディオマンシの檻に手を掛けた。
「檻ってこれか?」
「じゃあ、ここにいる太いのが、、ディオマンシ?」
ディオマンシは背中を向けたまま頭を抱え、いつ撃って来るかわからぬ銃弾にブルブルと震えていた。
「もしもし。もしやあなた様が彼の有名なディオマンシ様?」
その声にディオマンシは首だけキュッと振り向いた。
何やらオランダ兵は押し問答をしている。知らぬ間に銃口はオランダ兵の腰の辺り。
身体さえこっちを向けていなかった。
「なんだ?お前ら。そうだ。わしが彼の有名なディオマンシ。この国の王だ。」
「やっぱり。」
「彼の有名だもんな。」
ディオマンシは背中を向けたまま、チラチラとブラルとバズの方を見ながら言った。
「なぜお前ら、フランス軍と一緒におるのだ?殺されないのだ?」
「違う。違う。こいつらはオランダ軍。」
「オランダ? は? なぜ? フランスは?」
「この国の王。ファル様がやっつけた。」
「ファルがぁ?!しかし王はわしじゃぞ!」
「そうファル様。王はファルと言う名。あなたではないと聞いておりますが。」
「あのガキぃ、、あわあわこんな話をしている場合じゃない。逃げないと撃たれる!」
「おっさん。檻の四隅しか逃げ道ないじゃん。それにこいつらはオランダ同士。撃ち合わないと思うよ。」
ブラルがそう言うと、バズが続けた。
「けど、撃つとしたら、、おっさんしかいないわな、、」