殺戮と滅亡 88~神が宿ったワニ・魂の眼
コリ達は余りの驚きにニジェの周りで立ちすくんだ。
「ニジェ」と呼んだ切り、どうする事も出来なかった。
白煙がフワと浮き上がった。
ニジェは膝を立てるとそこに手を置き、ゆっくりと立ち上がった。
『ムルは本物の霊媒師だ。』
「どうしたニジェ!!何がだ!」
立ち上がったニジェの左目から流れ出した鮮血は、頬をつたい、首筋を通ると左の胸から右の脇へと滴り落ちた。
『あのワニに本当に魂をぶちこんじまった。』
「はっ?そんな事より、目は!?早く手当を!」
『大丈夫だ。深いが、ただの傷。』
ニジェはその目を穿ると弾玉をその手で引っこ抜いた。
新たな血が、ドクと流れた。
『ワニは、、いや、神は目を二つ欲しがったのだ。』
「意味がわからん。」
『俺がこのワニに付けた目玉は一つだけ。』
グワグワと燃え上がる火の手。
葦で造られた大きなワニは、頭上に煙を立ち上げると、火を吹くように燃え上がっていった。
その赤い閃光は、ニジェの手によって埋め込まれていた一つ目を放射状に光らせ、凛と浮かび上がらせた。
その目。虹色石であった。
ファルが赤い泉で突いた、マム・ジャーラの目玉。
あたかもそれを奪い取りに来たかのようであった。
ニジェは捥ぎ取った血のついた弾玉をその目に向けて放り投げた。
『ほ~れ!目玉だ!くれてやる~ぅ!』
その弾が煙に吸い込まれると、ワニは白煙と土煙を上げ、爆風となって荷車もろともドサと崩れ落ちた。
その振動は城壁の瓦礫の山さえぶっ飛ばした。
皆は頭を両の手で抱えその場に臥せった。
コン!ポン!
ニジェの頭に虹色石だけが真っすぐに落ちて来た。
ーーーーーーーー
瓦礫と水路の間を、右往左往と逃げ惑うオランダ兵の一団がいた。
「おいおい、ここはさっきの獣の檻ではないか!」
「まずい!まずい!ここは危ない!」
「あのワニがそやつだったら、ここにはおらない、、、」
「ん?」
と、もう来ぬ。大丈夫だろうと安堵したのか、その熱風の熱さにディオマンシは木の葉の外套脱いでいた。
檻に敷いた枯葉の上に真っ裸で座り込んでいた。
「あれ!?こやつ人間じゃないか!」
「なんだ!葉っぱを着ていただけだ!」
「そこに脱いである!」
「撃っちまえぇ!!」
落とし穴に浸からなかった一人の兵が、腰から銃を抜くとディオマンシに銃口を向けた。
「うああ~!」
気づいたディオマンシは四つん這いになると、檻の隅で背中を向けて体を丸めた。
「あわわ、あわわ。」
「撃っちまえ~!!」
ガザ ガサ ガザ ガサ
ひょいひょいひょいひょ~い!!
「待て待て待て待てぇ~!」
「は?何語?」
「あれ?お前ら?」
オランダ兵は驚いた。
現れたのは二人の裸同然の褐色の男。
その後ろにはまだピンと張った真っ新の紺の軍服。
煤けても泥にも汚れていない折れ目の入ったままのズボン。
ブラル。バズ。オランダ整備兵20人であった。