殺戮と滅亡 86~煙・波・火花
ヴィンセントは穴に落ちた兵を見捨てた。
彼は残りの兵を連れ、宮殿内に入ろうと試みた。
しかしダイナマイトの爆発は、城壁を取り巻いていたカジュやムクロジに火を点け、その飛び火は周辺の草花をも燃え上がらせた。
辺りは白煙と黒煙が入交り、砦の向こうを窺えぬ様相に変えた。
城壁の火の手と濛々(もうもう)たる煙はヴィンセントの目論見を遮断した。
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「ブラル!!あそこじゃないか?!」
「間違いない!!火の手が上がっている!」
朝の澄んだ空気に天高く昇る白竜の煙。
ただ密林の一点から火を噴いたように舞い上がっていた。
波の上をゴンゴンと上下する蒸気ボート。
ブラルとバズ。そしてハーンとオランダ整備兵はお尻をデッキに打ち付けながら、その白煙に舳先を向けた。
「バズ。あっという間だったな。」
「ああ、早すぎて目ん玉飛び出るわい!」
その目玉に突き刺さる波しぶき。
彼らは風の抵抗を少しでも抑えたいのか、皆前のめりになってタグの手摺りを掴んでいた。
整備兵の徽章の付いたベレー帽は、その速さの向かい風にフワと舞いあがった。
それはカザマンス川の波の上に着地すると、下流の西へとユラユラと流された。
「やっぱり早いな!文明の利器!!」
「ゆけゆけ~!!」
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ディオマンシ扮する野獣に驚いた兵達は、南へ逃げるとヴィンセント達と合流した。
「ヴィンセント殿!今!今!あの先の!もう煙で見えませんが!あそこに!化け物が檻に入れられてまして、、ハアハア。そいつが柵をぶち壊しまして、、ハアハア。もしかしたらこちらに向かって来るかも知れません。ハアハア、、」
「なにぃ?化け物だぁ? そんなものおるはずがないわ!お前らビビッて目ん玉裏返ってんのだ!しっかりしろ! 怯えてるんじゃない!」
「はあ、、」
「それよりもこの中だ!この中に入れる場所を探せ!崩れた壁の向こうだ!前が見えんのだ~!」
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『準備はいいかあ~!さあ皆で立ち上がらせるぞ~!』
ニジェは大声でカザマンスの民全員に号令を掛けた。
それは藁と葦でこさえた物。
ギザやナシャ、アフィ。
民の皆が協力して作り上げた物。
『せ~のぅ!!よいしょ~ぅ!!よいしょッ~ぉ!!』
大きな荷車にその下方を乗せ、頭の部分に繋いだ葦の紐をエンヤコラサと引っ張った。
『踏ん張れ!!踏ん張れ!!グイグイグイグイ~だ!!』
「うんとこしょ~!!どっこいしょ~!」
『もう少~し!あと少~し!』
それは荷車の上にグングンとせり上がっていった。
火の手はカザマンスの民にも襲い掛かって来る勢いであった。
崩れた城壁から煙と共に飛んで来る火種が、バチバチと彼らの身体を叩いた。
『周りの者~!!水をかけ~!この怪物が燃えちまう~!水を~!水をかけろ~!!』