殺戮と滅亡 84~仮面の矢・赤土の穴
1500の兵。
まだまだ数はいる。しかしここに来るまでの密林の夜明け。
彼らに浸透していた共通の恐怖感が攻撃のしるべを、あっさりと忘却の彼方へと押しやった。
ただ逃げ惑うのみ。銃を握っている事さえも頭の中から消え去っていた。
回り込んだ北側の城壁。
崩れ落ちるブロックの瓦礫。
石の弾丸。
覆われた白煙。
下敷きを逃れた兵は西へ西へと後退りを始めた。
瓦礫の山に攀じ登ったメッサとサニヤは、そこで仁王立ちになると、機関銃のように矢を放った。
次から次へと矢を渡したのは火を点け終わったコリとセグ。
「なんだ!あいつらは~!化け物かぁ~」
ヴィンセントが指差したのは赤と黄色に彩られた等身大の木彫りの仮面。
その縁を取り巻く白いモロコシの毛。
のぞき穴のようにくり抜いた吊り上がった眼の下には、ヤギの角を逆さまにし、牙に見立てた大きな口。
背中には孔雀のように立ち昇る極彩色の扇の羽。
それは見た事も無い二足歩行の獣。
その出立ちはメッサとサニヤであった。
「なにをやっておる!!銃を!銃を!銃を放てぇぇ!撃つんだぁ!撃てぇ!!」
ヴィンセントは号令と言う名の雄たけびを上げたが、周りを見渡すと一人の兵もいなかった。
置き去りに気づいたヴィンセントは銃を一発放つと、逃げた手下兵を追いかけた。
その弾はサニヤの仮面にパンッと当たると、そのまま真下に弾き返された。
ヘルメットに両手を当てながら屈むように走ったヴィンセントの腫れた顎。
出っ張ったそこに、メッサの矢が後ろからかすめた。
『行った!思った通りだ!!』
ニジェはヨッシャと口元を緩めた。
オランダ兵が逃げ込んだ場所は乾いた水路の塹壕の先。
木々が解けた草むらの開けた地。
そこに集結したオランダの残党。
その時であった。
ズッドドドドドドッス~ン!!
バラバラバラ~!!ド~~ッン!
そこは城壁を造る為の赤土を掘り上げた時に出来た巨大な穴。
その上に渡された薄く張ったブビンガの板。板の上に土を被せたのはジョラの年寄。
落とし穴であった。
数百の軍靴の重みは、いとも簡単にその板を穴の底に突き落とした。
「うわわわわッ~!!」
「ギャ~!!」
オランダ兵達は、両の足から垂直に地の底に落ちて行った。
「ひえ~!!」
「万事休すぅぅぅ~1」
ドン、ドン、ドン
「かぶさるんじゃな~い!!」
「痛い!痛い!どけ!どけ~!」
次から次へと落ちて来る兵は、赤土の底で人の山を築いていった。
すでに青空となっていた天を、土煙の中で仰向けになって見た。
後から逃げて来たヴィンセントと数人の兵は、間一髪。
ギリギリ穴の縁で爪先を立てて止まった。
「なにをしておるぅ!!這い出せぇ!這い出せぇい! 上がってこんかぁぁぁ!!」
爪の中まで泥に埋めながら這い出そうとする兵だったが、深い穴の赤土は容赦をせずにズルズルと底へ底へと滑らせた。
『ロダ!!ヘレ!!水門だぁ!!水門を開ッけろぉぉぉ~!』
「ニジェ殿!ホイ!来た!承知!承知ぃ~!」