殺戮と滅亡 82~来たぞ!オランダ!
オランダ軍は左右に並ぶ家々に拳銃の先を向けながら、宵明けの村を行軍した。
「まだ、向こうまで続いているようだ。」
ほんのりと赤味を帯びた空がその先を伝えた。
宵闇とともに眠りにつき、日の出とともに起き出すはずの未開の部族。
しかし、人の気配、その物音すらしない。
奥へ奥へと進む兵になんの抵抗すら見せない静けさ。
ここに居るはずの部族のだんまり。
その恐怖の情は、1500という数の軍勢よって保たれているだけのようであった。
空がオレンジの朝の光に覆われ始めた。
後ろ向きに歩いていた後方の部隊の眼には、左右合わせて40軒ほどの高床の家が映し出されていた。
それを取り囲む林は朝の日によって、深い濃緑色を露わにした。
先頭の兵が止めた。
「ヴィンセント殿。あれは?」
「ん?」
前方遥か、連なる木々の隙間から見えたもの。
この密林においては巨大な壁。
それは、登る太陽の日を受けた壁。淡いピンクの壁はその光と混じり合い赤く神々しく染まっていた。
「なんだあれは!!砦か!?」
「この村の王?城壁か!?」
鬱蒼の木々の濃緑。
その隙間から見える聳える異色の赤は、砦の長さを物語った。
「ヴィンセント殿。どういたしましょう?」
「何を言っておる。向かうに決まっておるであろう。」
ーーーーーーーーーーーー
「ニジェ。鳥たちが時を打たん。さえずりの一つもない。」
コリがニジェにこの微かな異変を伝えた。
ニジェは夜通し城壁に立って見張っていた。
『ああ、わかっているよ。なにかが起きている。』
「森で何かが動いている。その上ではわからないかも知れないが、地面にはじわじわと甘い香りが波打っている。」
『準備しろ。コリ!』
「ホイ、きた!」
ニジェは城壁の内側に掛けられた梯子を数段降りると、顔だけを外に出し、それが何かを探った。
西から来る何者かの足音。それは朝の日に1500の長い影を作った。
宮殿と城壁を取り巻くカジュとムクロジの木。
その一つ一つの木々の間から、一人、また一人と動き出して来る黒い影。
それはニジェが見たフランス軍の軍服ではなかった。
ーーーーーーーー
「なんだ?!この巨大な砦は!」
オランダ軍はぞろぞろとその赤い城壁の前に集結した。
首を直角に上げねば見えぬほどの高さ。
ここまで見て来た木造りの家並みとは全く異なる異端な造り。
到底同じ部族の物とは思えぬ赤亜の砦。
その燃え上がる様な美しい壁に、オランダ兵達はしばし口を輪の字に開け眺めいった。
ニジェは子猿のパタスさながらに、梯子を直滑降に降りると右手を上げた。
『コリ!セグ!火を点けろ~!』
「ガッテン!!ガッテン!!」
『メッサ!サニヤ!矢を構え~!』
「よっしゃ!よっしゃ!」
『ロダ!ヘレ!水門だ~!』
「ホイ!ホイ!」
『他の者は荷車よ~うい!!』
「おー!!!!」