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殺戮と滅亡 81~博物館の様な家・見下ろす鳥

 バタッ

鍵の無い木扉はいとも簡単にその部屋をさらけ出した。

「抵抗するなっ!撃つぞ!」

5人のオランダ兵が両手で構えた銃は、部屋の四方八方に向けられた。



 高床の家屋。

くり抜いただけの50センチ四方の窓が四隅にそれぞれ一つずつ。


一間だけの部屋にはわらで編んだであろうハンモックが4つ。

見渡すほどもない部屋は、ランプ一つで充分足りた。


 「誰もいない。」


オランダ兵は手掛かりにと隅々にランプを照らしていった。



 部屋の2隅にはゴミ箱であろうか、毛皮張りの蓋つきの編籠。

窓の縁には、ヤギ革の弁当箱。

 壁に掛けられていたのは、エレファントグラスの帽子とケンテ布で出来たカラフルなストール。

その一角には、ブロンズなのか銀細工であろうか蜷局とぐろを撒いた蛇型の腕輪が4つ。


 オランダ兵の足元の壁に立てかけられていたのは、瓢箪ひょうたんでできたワムデという打楽器。

親指ピアノといわれるカリンバ。それにバラフォンとコラ。


 天井に目をやると長さ1メートルほどの赤い仮面が4つ、そのはりに縛りつけられていた。

籠を編んだ土台に油脂をねそこに赤土を塗り込み固めた物だ。


 この部族の風習や文化を詰め込ませたような家であった。

なにか見世物的で、生活の臭いのしない整然とした配置。

違和感を感じた兵達は釈然としなかった。

 

「小さな博物館のようであるな。」

「ああ、しかし仮面に掘られた顔、腕輪。置かれている位置の高低。人であり、この地の部族。」

「高い知識と能力。文化的な生活だ。」

「もしかすると、フランス軍から逃れたマンディンカ族やジョラ族の残党?」

「ありえる。」



 オランダ兵はその先5軒を家探やさがししたが、誰も居ない。

人の気配は全く無かった。


 「戻ろう。ヴィンセント殿に報告だ。」

「なんて言う?」

 「これは廃墟の村ではない。何者かがいると。」

「それで済むと思うか?」

 「しかし、それ以外に何も言えんし、この先の家まで行こうものなら我々が孤立してしまう。」



ーーーーーーーーー


 『わかった。誰もおらぬという事だな。』

「いえ、誰も居ないと言いますか、気配が、、」


ヴィンセントはその言葉を無視しあっさりと意を決めた。

 『では、全軍で進もう。この村を抜け、一通りの確認の上カジュを探す。立て!』


 草むらに座り込んでいた兵達は、軍服のズボンをはたきながら立ち上がると、青い目をその先に向けた。

 

 来た道。東の密林の空に赤い日がにじみ、暗い濃紺碧を押し出し始めた。


 そこかしこの木々。

ねぐらの鳥たちは朝を告げるのも忘れ、その1500の行軍を枝の上から見下ろしていた。

※ケンテ布

アフリカ染色工芸の最高峰。王様等の特権階級の者が敷き布や衣類マフラーなどに使用した布

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